「私たちは、イノシシを丸ごと⼀頭、解体しました」。
20歳の⼥⼦⼤学⽣がそう⾔うのですから、その場にいたほぼ全員が⽬を丸くしました。
今回は、私たちが体験した「命をいただき、つなぐ」というリアルな現場をお伝えしていきます。(本記事には、イノシシ解体の実際の写真を掲載しております)
さて、皆さんはジビエと聞いたらどのようなイメージを思い浮かべるでしょうか?
独特の臭みやクセがある、硬い、⾷べてみたが⼝に合わなかった…。そんな⽅もいらっしゃるかと思います。実は私たちも以前はそんなイメージを持っていましたが、今は完全に払拭されています。
2018年8⽉、私たちは、西本願寺が主催する「お寺de農業インターンシップ」というプログラムのなかで、島根県浜⽥市の猟師さんに出会い、イノシシの解体という貴重な体験をさせて頂きました。
猟師さんが経営するレストラン「陽気な狩⼈」で⼣飯をいただいた翌⽇、レストランの隣にある「弥栄町獣⾁加⼯処理施設」で20時から解体を⾒学させてもらうことに。⼭奥とはいえ8⽉の気温では暑さで⾁が腐ってしまうため、夜に解体作業を⾏います。
イノシシが、ドン。目の前に差し出されます。
その隣に並ぶのは解体に使う刃物で、⼩さいものから⼤きいものまで約13種類。さあ、どうやって解体するのだろうと胸を⾼鳴らせていると、猟師さんが⼀⾔。
「やってみんちゃい」
「え⁉やるんですか!」と驚く私たちに差し出されたのは、⼿のひらサイズの⼩さな包丁。「この⼤きなイノシシを、こんな⼩さな包丁で解体するの⁉」と少し⼾惑いましたが、小さい包丁の⽅が、⼩回りが利いて解体しやすく、⼤きいものは塊を切るときに使う、とのことでした。
道具は⾃分に合ったものを使うことが⼀番⼤切で、ここにある包丁は、猟師さんの⼿に合わせて作られているのだそうです。
さあ、いよいよ解体です。捌く際にイノシシにストレスがかかるとあの独特な臭みが強く出てしまうそうで、素早く捌くことが⼤切になります。
まずはイノシシの⼿⾸を切り落とします。
「関節と関節の間に刃を⼊れてスッと動かすだけで、簡単に⼿⾸を切り落とすことが出来る」。アドバイスをいただきながら⼀⽣懸命その刃を⼊れる場所を探すのですが、なかなかポイントが⾒つからず、20分以上もイノシシの⼿⾸と格闘しました。
格闘の末、ようやくポイントを目がけて刃をいれると、あっさりと「ポロッ」。ほとんど力を入れずに切り落とせました。「何であんなにむやみに包丁を動かしていたのだろう」と思うほどです。
そして、⽑⽪を剥いでいきます。
これも「⼒を⼊れるのではなく、⽪を引っ張りながら刃を滑らせていくように動かす」という指導のもとやってみます。しかし、刃を⽴てすぎると⽑⽪に⽳を開けてしまうし、寝かせすぎると脂⾝ごと⽑⽪を剥がしてしまう…。うーん、難しい。
「⾷べられる部分は出来るだけ多く、無駄な部分は出来るだけ少なく」これを常に頭に⼊れて、作業を進めます。
さらに注意しなければいけないのが、⽑⽪の雑菌です。⽑⽪には様々な菌が繁殖しているので、少しでも刃が⽑⽪に触れると電解⽔で包丁を洗います。「なぜ洗剤ではなく電解⽔を使⽤するのか」と聞くと、猟師さんは「解体されるイノシシとそれを⾷べる⼈間の体、そして地球にもなるべく無害なものを使いたい」と。この時、私たちは普段どれほど洗剤を使い、限りある資源を汚していたのだろうかとハッとさせられました。
⽪を剥がしたら次は逆さまにつり下げて、⼿⾸と同じ要領で⾸を落とします。筋のポイントが⾒つかると、ストンと切り落とすことが出来ました。あとは各部分に分けて⾷⾁となります。
「命と向き合うということ、命をいただくということ」。
それをまさに実感した瞬間でした。
私は「命をいただいている、そして⽣かされている」という考えを以前から持っていましたし、⾷と農を学んでいる⾝として、命に接する機会は多い⽅だと感じていました。ですが「命をいただいているだけではない、⾃分もまた命をつなげていく⼀部なんだ」とまで考えることが出来たのは今回が初めてです。
『精⼀杯⽣きてきた命に対して、いただく側の私たちができることは何か』。
その問いに私たちは、「いかに美味しくいただくか」という答えを出しました。
丁寧に加⼯されたジビエは、調理した時ほとんど臭みが出ません。いただく命に敬意を込めて捌き、捨てるところを最⼩限に抑える。そして次の命につなげるために⼈体や環境に負荷をかけない⽅法を選択する。イノシシの解体作業を体験し、ただ美味しいだけではない、「命まるごとをいただく」ということを⾝をもって知ることができました。
お伝えした中にはショッキングな表現もあり、中には不快に感じた⽅もいらっしゃるかもしれません。私たちの体験をありのままお伝えしたのは、皆さんにもぜひジビエや命のことについて、あらためて考えてみていただきたい、いう思いがあったからです。
今夜は⾷卓にある「命」を囲んで、ご家族や周囲のみなさんとお話ししてみませんか。
<執筆者>
海津 荘乃子(かいづ そのこ)
和歌山県出身。龍谷大学農学部食料農業システム学科 熱帯農業・社会経済研究室所属。
吉村 芽(よしむら めい)
兵庫県出身。龍谷大学農学部食料農業システム学科 食文化・地域文化研究室所属。