2月9日は「ふくの日」。昭和55(1980)年、山口県・下関ふく連盟がフグの豊漁・航海安全・フグ業界の発展を祈る日として制定しました。
2月9日は2(ふ)、9(く)の語呂合わせ。フグの本場・下関では、フグは「不遇」に通じるため、縁起が良い「福」の発音を用いて「ふく」と言い換えているといわれています。現在は、観光業や水産業の関係者は「ふく」と発音しているものの、多くの下関市民は「ふぐ」と呼んでいるようです。
フグはフグ目フグ科に属する魚で、世界中に約180種類生息しており、日本で食用として許可されているのはトラフグ、マフグなど22種類です。
フグの多くは、内臓や皮膚、血液、筋肉に毒性のあるテトロドトキシンをもっています。この毒をフグがもつことの生物学的な意義については、いまだ明確に解明されていません。しかし、危険を察知したときに皮膚から毒を出して捕食を防いだり、卵巣にテトロドトキシンを蓄積したりすることで、産卵後の卵が他の生物に食べられないようにしているといわれています。
毒の強さはフグの種類や生息地、季節によって異なりますが、テトロドトキシンは青酸カリの約850倍の毒素があるのだそう。人に対する致死量は経口摂取の場合わずか1〜2mgとされています。フグ中毒にかかったとしても、人にはこの毒に対する免疫がないため、免疫血清をつくって治療することはできません。さらに特効薬も存在しないため、フグは猛毒をもつ非常に危険な生き物とされています。
そのため日本では、食用にできるフグの種類や漁獲場所、部位が法律により定められています。また、フグ毒による食中毒の発生を防ぐため、各都道府県はふぐの処理や調理について厳格な資格制度を設けています。
ちなみに、石川県には、毒を含んだ卵巣を長期間ぬかに漬けることで解毒させた「ふぐの子ぬか漬け」という郷土料理があります。しかし、なぜ毒が抜けるのかは解明されていないそうです。なんとも不思議ですよね。
日本人は、古くからフグを好んで食べていました。約2万年前の旧石器時代の出土品からフグ科の骨が見つかっているほか、縄文時代の貝塚からも多数のフグの骨が発掘されています。
フグ食が禁止されたのは、安土桃山時代のこと。文禄・慶長の役(1592〜1598年)の朝鮮出兵に際し、九州に集められた武士たちが出兵前にフグを食べて命を落とす事例が相次ぎました。そのため、豊臣秀吉が「河豚(ふぐ)食禁止令」を出したといわれています。
この禁止令は明治時代まで続きました。江戸時代には幕府がフグ食を禁じ、藩によっては取り締まりが行われました。長州藩(現在の山口県)では、フグを食べて中毒死した場合は家禄没収・家名断絶という厳しい処分が科せられていたそうです。
とはいえ、一般市民はこっそりとフグを食べていたようです。江戸初期の料理本『料理物語』には「ふくとう汁(ふぐ汁)」の作り方が書かれています。この料理は、味噌と醤油で味付けしたフグ汁に、茄子とニンニクを合わせた汁物。フグは「皮をはぎ、腸(わた)と肝臓を捨て、よく洗って濁酒(どぶ)につけて、清酒も入れて置く」と書かれています。
江戸前期の俳人・松尾芭蕉は「河豚汁や 鯛もあるのに 無分別」という俳句を詠んでいます。「鯛という魚があるのに、わざわざ危険なフグを食べるとは、なんとも浅はかなことよ」という意味です。
一方、江戸後期の俳人・小林一茶は、50歳で初めて食べたフグの美味しさに感動し「五十にて 河豚の味を知る 夜かな」や、「河豚食わぬ 奴には見せな 富士の山」(フグを食べない者には、富士山を見る資格はない)という句を残しています。
このように、フグ食に対する考え方は芭蕉と一茶では異なるものの、これらの俳句が詠まれた江戸時代、庶民は少なからずフグ食を試みていたことがわかりますね。
フグ食が解禁されたのは、初代内閣総理大臣・伊藤博文が下関を訪れたことがきっかけです。明治20(1887)年の暮れ、伊藤博文は料理旅館「春帆楼」に宿泊し、「魚を食したい」と伝えます。「春帆楼」は、のちに日清講和条約の締結会場となった歴史的な場所です。しかしその日はシケで、魚がまったく獲れませんでした。もてなしの料理に困った女将は打ち首覚悟で、禁制だったフグを御膳に出しました。
フグを食べた伊藤博文はその美味しさに感嘆。翌年、山口県令(知事)にフグ食の解禁を命じ、山口県内に限り食用が認められるようになりました。
下関では、長らく続いたフグ禁止令の期間中もフグを食していたようです。また、伊藤博文は若き日に高杉晋作らとフグを食べたことがあり、フグの味を知っていました。「春帆楼」も伊藤博文もフグ食を公にはできませんでしたが、偶然が重なりフグ食が解禁されたということになりますね。
のちに全国でフグ食が認められるようになり、1940年代からは山口県や大阪府を中心に高級フグ料理店が登場しました。
フグの旬は、一般的に10〜4月とされており、刺身・鍋・雑炊・唐揚げ・焼きフグ・ひれ酒などで楽しむことができます。「てっさ」と呼ばれるふぐ刺しは、ネギまたはあさつき、もみじおろしなどの薬味とともに、柑橘と醤油を合わせたポン酢でいただくのが定番です。
2月9日「ふくの日」にちなみ、山口県下関市では例年、2月11日の「建国記念の日」にフグのイベント「下関ふくの日まつり」を開催。また、全国のフグ専門店でもキャンペーンが行われます。「ふくの日」は高級食材・フグをお得に食べられる機会です。旬を迎えた美味しいフグを堪能してみてくださいね。