ひんやり冷やしそうめんをすすっていた暑い夏から寒い冬を経て陽射しさんざめく春へ。あっという間ですね…そんな季節においしい、滋賀県湖北地方の郷土料理「焼き鯖そうめん」と、この郷土料理がこの土地に根付く背景となった「鯖街道」、そしてそんな「鯖街道」の魅力的なスポットを、学生ライターの中田名帆子がご紹介します。
「鯖街道」に伝わる鯖を守り伝えるための取り組みなどの文化的背景を知ると、あなたの旅心もきっとくすぐられますよ。
焼き鯖そうめんとは、滋賀県の長浜市などをはじめとした、湖北地方の郷土料理です。上にあるのがその写真! どうですか? 見ただけで、お出汁と焼鯖が絡みあった濃厚な香りが食欲をくすぐるのではないでしょうか。
この焼き鯖そうめん、焼いた鯖を甘辛い出汁で煮込み、同じ煮汁でゆでたそうめんの上に、その焼き鯖をのせた家庭料理。通常、冷水で締め、つゆにくぐらせて食べるのが一般的なので、焼鯖そうめんは“煮込みそうめん”と表現してもいい料理かもしれません。
では、そのお味は、いったい…?
「麺はグダグダになっていないの?」と思っちゃいますよね。だがしかし、焼き鯖そうめんでは、その「グダグダ」がいいのです! 柔らかな細麺が鯖のうま味を吸い込んでいて、むしろ堪えられないほど美味しい!」
実は、焼鯖そうめんは味が濃いため「ご飯のおかず」的に食べるのが定番だそうですよ。
それにしても、「海のない滋賀県の郷土料理がなぜ鯖そうめんなの?」「そうめんと鯖の組み合わせ、どこから出てきた?」など、いろいろ不思議ですよね!? 今回は、焼き鯖そうめんを出発点に、滋賀県の新たな魅力に迫ってみたいと思います。
では、焼き鯖そうめんは、どのようにしてうまれたのでしょうか? 一説では昔、田植えの時期にはお米が底をついてしまっている農家が多く、保存食として蓄えていたそうめんを使って、焼き鯖と合わせて食べたのが由来と言われています。濃厚な味付けは、農作業で疲れた身体にちょうど良い塩加減だそう。
さらに栄養たっぷりの鯖が、忙しい農家さんを助けていたのですね。では、この鯖はいったいどこから来たのでしょうか?
滋賀県と言えば琵琶湖! では、琵琶湖で鯖が獲れるの? というと、答えはNOです。
かつて、若狭湾で獲れた鯖などの物資を京へ運ぶ、「鯖街道」と呼ばれる道がありました。いくつかのルートのうち、滋賀県を通っていたのは、朽木村から京都大原に至る「若狭街道」です。ちなみに、若狭湾で獲れた鯖を塩で締め、夜を徹して京都まで運ぶと、ちょうど良い塩加減になっていたそうですよ。
この鯖街道と呼ばれる街道群は、食だけでなく、さまざまな物資や人、文化を運んだ「交流の道」でもありました。街道沿いには社寺、町並み、民俗文化財など様々な文化遺産群あります。
今回は鯖街道のメインルートである若狭街道にある、魅力的なスポットをご紹介します。
焼き鯖そうめんを食べに行ったら、ぜひ立ち寄ってみてくださいね。
令和2年3月8日「鯖の日」オープンした、全国的にも珍しい「サバ」をテーマにしたミュージアム。かつて鯖の産地として賑わった小浜の歴史を見ることができます。日本遺産「鯖街道」をはじめとする小浜市の文化財や伝統芸能、祭礼などを紹介しているほか、鯖街道で育まれた文化交流の映像展示なども充実。飛び出すサバや北前船に乗船できるトリックアートなど、お子さんも楽しめる施設になっています。観覧料が無料なのもうれしいですね。
小浜市は鯖街道起点の地。焼き鯖そうめんをめぐる旅のスタート地点にもぴったり!
鯖街道にそった若狭町には、「おいしさが素晴らしい名水部門」第2位に選ばれた「瓜割の滝」があります。写真を見ただけで、マイナスイオンと緑の香りが漂ってくるような気がしませんか?
「瓜も割れるほどに冷たい」ことから名のついた瓜割の滝周辺には、豊かな森が広がっています。木の間から光が差し込み、岩には苔が群生する幻想的な光景です! 庭園内には、1万株ものアジサイや、桜、紅葉などが植えられており、四季折々の景色を見せてくれます。
若狭街道の中継地として栄えた熊川宿。今も街道に沿って美しい町並みが続いており、若狭町熊川宿重要伝統的建造物群保存地区に選定されています。
若狭街道の要所として、天正17(1589)年に若狭の領主となった浅野長政より整備されました。宿場を流れる用水路「前川」は平成の名水百選に選定。若狭熊川宿まちづくり特別委員会が組織され、町並みの保存と活性化が図られています。
熊川宿にほど近い道の駅では先ほど紹介した瓜割の滝の瓜割の水などが購入できたり、鯖寿司、鯖だし和風ラーメンを味わえます。道の駅を起点に徒歩4分のところにあるウッディなログハウス風の一軒家カフェ「Saba Café」では、フランスパンに肉厚な鯖のフィレを一枚まるごとサンドしたサバサンドなどの看板メニューが味わえます。ちなみに、入り口にはテラス席も。そして、もう一件、こちらも道の駅を起点に徒歩7分にある元々お豆腐屋さんだった築100年以上の建物を改修して営んでいるカフェと手作り雑貨販売の「さんぽ道」では、伝統料理の鯖のぬか漬け“へしこ“を使ったおにぎりを味わえます。店内には川が流れていてせせらぎの音が心地よく癒されそうです。
道の駅をはじめウッディなログハウス風の一軒家カフェや店内に川が流れているカフェなど自然を感じながらゆったりとした時を過ごせる空間が豊富なことが魅力の一つではないでしょうか。
鯖街道のメインルート「若狭街道」の3つのスポットをご紹介しました。鯖街道をたどってみると、現在にかけて1500年続く歴史と、伝統を守り伝える人々の営みを肌で感じることができます。そして、あらためて意識させられるのが、昔から人々の生活に大きな恵みをもたらしてきた「鯖」の存在感。
最後に、人々に愛され続けてきた鯖を、次世代につなぐ取り組みをご紹介したいと思います!
「鯖街道」が2015年に日本遺産に認定され、鯖の食文化を見直そうという機運が高まったものの、肝心の鯖の漁獲量の減少という現実がありました。
そこで現在、小浜の鯖を復活させようと小浜市内の産学官が連携し、鯖の養殖に取り組んでいます。その鯖の名は「小浜酔っ払い鯖」!どんな鯖なのか気になりますよね。
小浜酔っ払い鯖は、小浜で育ち、酒粕が含まれている餌を食べていることからその名がついたそう。水産資源の創出はもちろんのこと、地域の食文化の継承という意味でも、まさにサステイナブルな取り組みといえるでしょう。
「小浜酔っ払い鯖」でつくった焼き鯖そうめんの味、とっても気になります!
焼き鯖そうめん、初めて知った方も多いかと思いますが、いかがでしたか? 滋賀県から福井県にかけてのさまざまな文化を映したグルメから、この地域に興味を持っていただけるとうれしいです。
実は、私自身が滋賀県の良さを感じたのも、焼き鯖そうめんをはじめとした「食」がきっかけでした。幸せなグルメとの出会いから、背景の文化、その土地の良さに興味が広がって、気が付くと大好きになっている…。
気持ち良い春の陽射しのもと、あったかメニューを楽しむ旅で、お腹も心も満たしてみては?
今回の執筆者
中田 名帆子(なかた なほこ)
龍谷大学 農学部 食品栄養学科 1回生
大阪府出身。幼い頃から食べることが大好きで、最近は土地の名産品や郷土料理に興味を持っています。