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島先生の発酵よもやま話 第8回 琵琶湖と山並みが育む

島 純

龍谷大学農学部生命科学科教授、博士(農学)

島先生の発酵よもやま話 第8回 琵琶湖と山並みが育む

島 純

龍谷大学農学部生命科学科教授、博士(農学)

発酵産業が盛んな県

日本は、四方を海に囲まれた東西に長い島国で、陸地の7割を山地がしめています。そのため、温度、湿度、降雨・降雪量などは、地域や季節によって大きく異なります。日本では非常にたくさんの種類の発酵食品が作られていますが、地形や気候が多様であることが理由のひとつです。
滋賀県は、日本で最も発酵産業が盛んな県の一つです。鮒寿司に加えて、味噌・醤油、日本酒、漬け物など幅広い発酵食品がつくられています。その理由を考えていきましょう。

周辺から新しい技術

滋賀県はとても広いので一つにくくることはできませんが、気候が温和で降雨量が比較的少ない地域が広がっているのが特徴です。
地形からみると、やはり琵琶湖の存在がとても重要です。琵琶湖のまわりには高い山々が連なっており、周囲に降った雨は山々から流れ出て田んぼや畑を潤し、そして琵琶湖に注がれていきます。そのため、お米や大豆等の農作物を日本酒や味噌・醤油に加工する発酵技術が盛んになったのです。
また、琵琶湖は、ニゴロブナなどの淡水魚を育みました。貴重なタンパク源であった鮒を長期保存するために作られたのが、鮒寿司です。さらに幸運だったのは、東海道や中山道が交わる交通の要衝に位置していたことです。そのため、周囲の地域から新しい技術がどんどん取り入れられていきました。

微生物は地につく

発酵食品を作る時には微生物の力を借りなくてはなりません。私は学生への講義などで、「微生物は地についている」とよく言うことがあります。植物と同じように、その地域の気候などにあった独特な微生物が根付いているという意味です。発酵食品を作る際には、その地域に根付いている微生物が最も適しているのではないかと思っています。鮒寿司などの発酵食品は、滋賀県に根付いた優れた微生物を巧妙に活用することでつくられてきたのです。

[ひと口メモ]「ふな寿司」旨みの正体はアミノ酸
鮒寿司の独特の風味は、お米を使った乳酸発酵の過程で、魚肉のタンパク質が旨み成分=アミノ酸に分解されて生まれます。

出典:「島純の発酵食」『滋賀民報』