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島先生の発酵よもやま話 第10回 日野菜漬けの化学

島 純

龍谷大学農学部植物生命科学科教授、博士(農学)

島先生の発酵よもやま話 第10回 日野菜漬けの化学

島 純

龍谷大学農学部植物生命科学科教授、博士(農学)

500年前から

化学というと、亀の甲羅のような記号がでてくるようなイメージがあり、苦手と思われている方も多いかもしれません。でも、今回は滋賀県が誇る日野菜に関するものですし、難しい記号も出てきませんので安心して下さい。
現在では広く国内で栽培されていますが、日野菜は滋賀県の日野町が原産とされるカブの仲間の野菜です。今から500年くらい前の室町時代から既に栽培されていたと考えられています。
日野菜には、アントシアンという成分が含まれています。ナス、紫キャベツ、ブルーベリーなどにも含まれている成分です。目の疲れを軽減する効果が知られていますし、活性酸素という身体にはあまりよくない物質を遮る効果もあるとされています。

さくら漬けとも

日野菜は漬物にして食べることが多くありますね。ほんの少しだけ感じられるえぐみと、パリッとした食感でとても美味しい漬物です。きれいな桜色をしていることから、さくら漬けともよばれます。
日野菜漬けは、滋賀県伝統の優れた食品であることから、平成10 年に「滋賀の食文化財」の一つとして選ばれました。お漬物にすると桜色がより映えてきますね。これはなぜなのか、考えたいと思います。

桜色とアントシアン

日野菜漬けの桜色にも、アントシアンが関係しています。このアントシアンという物質は、まわりの環境によって色が変化するのです。アルカリ性だと青色に近く、中性だと黄色になり、酸性になると赤い色を示すことがわかっています。日野菜の酢漬けの場合には、お酢によってアントシアンのまわりが酸性になり桜色が強まります。また、乳酸菌が増えるような発酵漬物では、乳酸菌の作る乳酸が酸性の原因になります。食塩にも色を長持ちさせる効果があると考えられています。
室町時代の人々は、酸性とかアルカリ性といった概念は知らなかったのかもしれませんが、上手に化学の力をつかって、見た目も素敵なお漬物を作っていたのです。

[ひと口メモ]栄養豊富な日野菜の根
日野菜の根には、でんぷんの消化酵素として働くアミラーゼや、少量のビタミンを含んでおり、葉の部分βカロテンやビタミンC、カルシウム、カリウムなどの栄養が豊富に含まれています。

出典:「島純の発酵食」『滋賀民報』