植物をちぎったり切ったりするとその植物独特の匂いがします。同様に植物は虫に食べられても匂いを出します。植物はこの匂いを何のために出すのでしょうか?
子供にとってお店に並んでいるキャベツとレタスは見分けが付きにくいそうです。しかし、ちぎって匂いを嗅がすと、「あ、キャベツ」と区別できるようです。『私はキャベツです!』と私たちに分かってもらうためなのでしょうか。
実はその匂いは、傷口から病原菌の侵入を抑えるためとか、捕食性昆虫(天敵)に害虫がいることを知らせるための匂いなのです。今回は、後者の天敵と植物の匂いの関係について紹介します。
植物が虫に食べられたときに出す匂いがその虫の天敵を誘引するという現象を最初に報告したのは1983年、農業国オランダの研究者でした。彼らはハダニに食べられたリママメから出る匂いによってハダニを食べるチリカブリダニが誘引されるということを、Y字管オルファクトメーター(図)を用いて証明しました。
図:Y字管オルファクトメーター(京都大学高林純示名誉教授提供)
植物はハダニに食べられたときに匂いを出すことによってハダニを食べてくれるチリカブリダニを誘引し、それ以降の被害を減らすことができます。また、チリカブリダニにとってその匂いは、揮発性であるために手に入れやすく、またハダニがいる場所を特定するための信頼性の高い情報なのです。
この植物―草食昆虫(植食性昆虫)-捕食性昆虫(天敵)という食う食われる関係がつながった食物連鎖の中に、植物の匂いを介して植物と天敵に相互作用があることを三者系(Tritrophic Interaction)と呼び、この研究以降、さまざまな植物と捕食性昆虫、捕食性寄生バチ、寄生バエとの関係が明らかにされてきています。
最初に出てきたキャベツも天敵を誘引します。アブラナ科植物であるキャベツには、アブラナ科を専門に食べるコナガという植食性昆虫がいます。コナガには、コナガサムライコマユバチといった捕食性寄生バチが存在しています。捕食性寄生バチは宿主幼虫の体内に卵を産み付け、孵化したハチの幼虫は宿主幼虫の体内を食べて大きくなり、最後には宿主幼虫の外皮を破って出てきて蛹(さなぎ)になります。その時点で宿主幼虫は死んでしまいます(写真)。
コナガサムライコマユバチ(左上)、コナガ幼虫からコナガサムライコマユバチが脱出してきたところ(右上)、コナガサムライコマユバチの前蛹(左下)、コナガサムライコマユバチの繭(右下) (農研機構:安部順一朗氏提供)
コナガサムライコマユバチの選好性を調べたところ、パンチで機械的に穴を開けたり、モンシロチョウに食害されたキャベツよりも、宿主であるコナガに食害されたキャベツに好んで飛んでいきます。実際に、キャベツから放出されている匂いは、コナガに食害された株とモンシロチョウに食害された株、パンチで穴を開けた株の匂い成分は同じだけれどブレンドが異なり、それぞれ違った匂いなのです。
つまり、キャベツはコナガを退治してくれるボディーガードとしてコナガサムライコマユバチに情報を送っていると考えられるのです。