ワインの合わせ方によって料理の味わいは大きく左右される。個性的な料理にピンポイントで個性的なワインを合わせ、さらに予想外の変化や高みを求める。一方、伝統的な日本酒と料理の合わせ方はワインとは少し違う。料理に合った日本酒は料理の余韻を穏やかに消してくれる。そして、酒のうま味が全体の調和を保つ。酒が料理の邪魔をせず、また控えめ過ぎないというのが、強いて言えば日本酒のマリアージュであったかもしれない。
マリアージュのニュアンスの違いは、日欧の結婚観に起因するかもしれない。男女が互いに認め合ってさらに高いものを作り出すのはフランスの文化だろう。一方、時代錯誤の語弊覚悟で言うと、日本の古典的な夫婦関係は、女性が男性の一歩後に従い、支えながら調和を計るのを(男は)理想としてきたふしがある。現代には通用しないとしても、かつては、少なくとも人前では、女性は男性を立てて調和することが美しい夫婦であった。日本酒はそのような古い因習の中で育った酒である。谷間の白百合のような静謐な女性の理想像を勝手に作って、日本の男は日本酒を愛でてきたとするならば、この世界にワインが割って入るのは容易ではない。これが、三角関係の現状である。
古典的日本男性の感覚でうま味に近寄るならば、うま味に合うワインに重要なのは、酒のうま味だけではない。うま味を邪魔しない相当な控えめがワインには必要となってくる。うま味は酸味や甘み、渋味によって簡単に消えてしまう。果実酒でこれを消さないためには、葡萄の育種から始める必要があろう。私は醸造の専門家ではないが、少なくとも、華やかな香りを控え、酸味を控え、甘みを控えた醸造法のワインが期待される。
一方、日本料理も欧米の刺激を受けて大きく変化しつつある。うま味は必須としても、風味の表現はもっと自由になってきた。うま味を消すことなく、新しい日本料理の風味に関係を結ぶワインの登場も夢ではないと思う。
出典:(一社)日本ソムリエ協会「Sommelier.jp」