料理のうま味を巡って、ワインと日本酒が興味深い関係にある。うま味を活かした料理に合うワインが求められるようになってきたのである。うま味は世界共通の先天的に好ましい味であり、うま味の認識では先行しているとされる日本料理が評判になってきた今日、ワインが秋波を送るのも無理はない。
うま味は日本食との関係が特に深い。同郷の幼なじみのような関係で日本酒と付き合ってきた。特に魚介の生臭さを軽くいなすように抑えてくれる日本酒の技には長い歴史がある。
キャビアでも生牡蠣でも全く苦にしない。むしろ、それらのうま味を楽しむために発展してきたとさえ言える。
一方、欧米の料理にもうま味は重要な働きをしているが、立場は地味。多様で奔放な欧米の料理の風味の中では、うま味は気後れして前に出て来にくい。しかも欧米の料理は、これも幼なじみの個性的なワインともうまくやっており、東洋の田舎育ちのうま味の出番はなかった。
降って沸いたようにフランスに現れたのが、素材を活かすという新潮流である。これが関係を微妙に変えた。フレンチ特有のこってりした油脂や乳成分の重厚感から、素材の美味しさへの転換によって料理が軽くなってくると、素材の風味とともに、うま味も俄然重要になる。素材の種類は無数にあるので、合わせる酒も違ってくる。そして、うま味もターゲットになってくる。日本料理や日本酒に注目が集まりはじめるのを、ワインは黙視してばかりはいられない。
日本酒は、情熱的な果実酒のワインとは性格を異にし、あまり他人には深入りしない。相手を立てながら、適度のうま味と穏やかな主張で誰とでもほどほどに愛想よく付き合える。穀物酒らしい朴訥な性格である。最近では特に後味がすっきりと消えてくれる日本酒が評価されてきており、ストンと切れる味わいと言うのが強いて言えば日本酒のトレンドである。この特性はさらに料理に、淡い味わいの繊細さを求めるようになってきていると感じられる。
欧米のワインにとって日本料理は、神秘的で精神性も深く、お付き合いしてみたい。特にうま味は新しい魅力である。しかし、おとなしい料理のうま味がどうもワインの強い個性に引き気味であることはなんとなく気がついている。
どうしたら、ワインはうま味に近づけるか。
これが日欧の酒と料理をめぐる三角関係のはじまりである。
出典:(一社)日本ソムリエ協会「Sommelier.jp」