先日、味の素食の文化フォーラムが主催したミニプログラムに参加した。東京大学の東原和成先生やフレンチの生江史伸シェフらの協力によるワインを題材にした香りの体験のプログラムである。そのなかで料理の風味とワインのマリアージュの解析には驚くことがあった。
出品された日本ワインは、それぞれ世界と戦える秀逸なものであった。いくつかのワインと料理のマリアージュの例の中で、まずはワインが料理の風味を受け止め、調和させ、次の瞬間にワインの個性をじわりと発揮させる組み合わせに数多く出会ったのである。
料理の風味の尖ったところをワインがきっちりと受け止め、一瞬の間、料理とワインが一体となって真空に近いような静寂を生む。間髪を入れず、静けさのなかからワインの持つ個性的な風味が、次々と展開される。料理の味わいとワインの個性とが、協力し合いながらもそれぞれの個性を隅々まで呈示しているのである。
ワインと料理の関係は、個性の主張ばかりと信じていた素人の私には、ワインが料理をまず受け止めておもむろにフレーバーの特徴を展開する流れに感動した。
料理を受け止めて調和するところまでは日本酒に共通の部分がある。この部分を指標に日本酒は選ばれているといえよう。そのあとにワインの個性の違いが出現するのだが、この主張は日本酒には弱く、日本酒はうま味の調和にフレーバーをまとめ上げることが多い。
東原先生も、料理を担当された方も、生江シェフも、マリアージュとして料理とワインの正面からの勝負のあとで、おもむろにワインの特徴を引き出すことを当たり前のように捉えておられ、驚いた。こればかりがマリアージュの全てではないのかもしれないが、ワインもなかなか懐が深いところを垣間見たように思った。
料理の味わいが軽くなって行くことは世界のトレンドであろう。このような流れのなかで、反対にうま味は料理の味わいのなかで強調されていくことが予想される。うま味は少し濃すぎても邪魔にはならない。むしろ、軽くなった料理の味わいの中心に出てくると思われる。うま味とワインの味とが出会うチャンスが増すかもしれない。うま味とワインの味成分との折り合いを素人ながら想像する次第である。
出典:(一社)日本ソムリエ協会「Sommelier.jp」