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日本のうま味、だし成分のテロワール -第3弾-

伏木 亨

龍谷大学名誉教授、農学博士

日本のうま味、だし成分のテロワール -第3弾-

伏木 亨

龍谷大学名誉教授、農学博士

実験条件を慎重に揃える

利尻昆布は、礼文島の香深浜、船泊浜、利尻島の鷲泊浜、仙法志浜、沓形浜の5つの浜から1等級の昆布を選び、2年間蔵内で乾燥したものを用いた。対照として真昆布の尾札部浜を使った合計6種類とした。
水は硬度48の京都の地下水。形のそろった1等級昆布の同じ部位を一定量使って同じ温度と時間で昆布ダシを引き、枕崎の本枯れ節を一定量使って合わせだしとした。昆布だけのダシよりも合わせだしの方が相乗効果のおかげでうま味の違いがよく分かる。

礼文島と利尻島。香深浜は礼文島の南側にある

尾札部浜は別もの、利尻のなかでも浜ごとの味わいが

6つのだしのうち尾札部の真昆布が強い味わいであった。残り5つの利尻浜の昆布はいずれも淡くて風味のある似たものであった。しかし、比較すると私の様な素人でもわかるほどの味わいの違いがあった。しかし、この感覚的な違いは客観的に表現する方法がない。

だしの成分分析

そこで、だしに違いがある事を裏づける目的で、それぞれのだしのアミノ酸組成を分析した。

表に示すとおり、利尻の5つのダシは、タンパク質やカリウム濃度に大差が無い。このことから、ダシの抽出方法にはばらつきはないことが分かる。アミノ酸も大半は違いがない。
しかし、うま味に関わるグルタミン酸とアスパラギン酸だけはかなりの違いがあった。最も淡い香深浜、仙法志浜のグルタミン酸のアスパラギン酸の合計が100ml中にそれぞれ33mg29mgであったのに比べ、船泊浜は63mg, 尾札部の合計が154mgと格段に高濃度で、濃い味わいの特長と一致している。

利尻昆布の味わいの違いがうま味アミノ酸だけで説明できるとは思われないし、うま味成分が多いことが美味しさを表すわけでもない。少なくとも、近接した浜でも昆布は同じではない事が示唆されたと思う。むしろ、浜ごとに昆布の特定の香り成分に違いがあることが想像されるが、香り成分は多種類あり、現在の科学で詳細な比較解析は困難である。
産地の違いのみならず、同じ海域で隣接する浜でも、昆布の成分やダシの味わいに違いが生じる可能性が示唆された。奥井海生堂の奥井隆氏が唱える昆布のテロワールを支持する結果である。

出典:(一社)日本ソムリエ協会「Sommelier.jp」