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プロに聞いた! 草や花で畑を元気にする「緑肥」のヒミツ

ナガオ ヨウコ

ライター/販促コンサルタント

プロに聞いた! 草や花で畑を元気にする「緑肥」のヒミツ

ナガオ ヨウコ

ライター/販促コンサルタント

畑では、同じ野菜を育て続けると土中の微生物のバランスが崩れて、作物が病気になりやすくなります。化学肥料や薬剤で病気を防いだり、土に栄養を与えたりすることもできますが、近年注目されているのが、自然のチカラで土を元気にする「緑肥(りょくひ)作物」です。

「緑肥作物」は、地力アップや防虫・病気対策などの効果を目的とし、収穫する野菜や果実以外に育てる草や花のこと。多くは、「緑肥作物」を栽培〜収穫せずに裁断する〜田畑にすきこむ〜土中で分解されて肥料になる、というサイクルです。
今回は、「緑肥作物」のタネを育成・販売する種苗メーカー「タキイ種苗」を訪問。一般にはあまり知られていない、「緑肥作物」のヒミツを聞いてきました。

化学肥料や農薬に頼らず、土のチカラを上げる「緑肥作物」

ここ2年、「緑肥作物」の注目度が急激に高まっています。
その理由は、2022年、国が『みどりの食料システム戦略』として、『2050年までに化学農薬の使用量50%低減』『輸入減量や化石燃料を原料とする化学肥料の使用量30%低減』『有機農業の割合を現在の0.2%から25%に拡大』という目標を定めたからです。

「緑肥作物を使うと、化学肥料や農薬に頼らずに、土に有機物を供給したり害虫の発生を抑えたりと、さまざまな効果が期待できます」とお話しいただいたのは、「タキイ種苗」営業部 緑化飼料課の草野竜則さん。

(資料/タキイ種苗資料より作成)

「緑肥担当として、全国の農家さんとおつきあいしています。みなさんがおっしゃっているのが、『いい野菜を作るには、まずはいい土づくりから』ということです。

お悩みで多いのが『収穫量が減った』『病気や害虫に悩まされている』『除草剤を使わずに雑草の生育を抑えたい』『減農薬の作物で差別化をはかりたい』『産地のイメージを向上したい』といったものです。

化学肥料や農薬を使うことで、病気や害虫、雑草に負けない畑にすることはできます。即効性がある、土壌成分の簡単な計算が可能といったメリットはありますが、土の中の有機物や微生物が減ってしまうこともあります。

手間がかかる、お金を生まない、一定の効果を得るのが難しいという面もありますが、『なるべく自然に近い栽培をしたい』、『化学肥料や農薬を減らして、おいしい作物を育てたい』という農家さんが利用されています」。

目的は「土づくり」「病害虫の抑制」「景観美化」

(画像/タキイ種苗 提供)

「緑肥作物」としてよく使われるのは、春から夏はソルゴーという高きびの仲間、秋から春は麦類です。

「品種にもよりますが、風よけになる、根が深くまで伸びるので土をほぐし水はけがよくなる、保水力が改善される、病気を予防できます。種がつく前に刈り取って細かく刻み、畑にすき込むと微生物により分解されます。栄養たっぷりの土になるのですよ」。

また、マメ科の植物を育てると、根につく「根粒菌(こんりゅうきん)」が、空気中から窒素を吸収して植物に与えてくれます。化学肥料は、空気中の窒素を利用して製造されていますが、マメ科植物を育てるだけでも窒素分がつくられるのだそう。

(画像/タキイ種苗 提供)

こちらは、大根がかかりやすい病気「根こぶ病菌」を引き寄せる「コブ減り大根」。食用の大根よりもかなり細く小さいですね。

(画像/タキイ種苗 提供)

「コブ減り大根は、根こぶ病菌に感染しても発病しないという性質があります。菌が増殖しないので、このあとに収穫用の大根を栽培すると病気にかかるリスクをかなり減らすことができるんですよ。利用したあとは、畑にそのまますき込めば緑肥となります」。

しかし、草丈の高いソルゴーや「コブ減り大根」は、関西エリアでほとんど見かけることはありません。

「関西では、作物が1年中栽培されることが多く、緑肥作物を利用する農家さんの数は少ないですね。京都府南部には、ナス畑の周りにソルゴーを育てている農家さんがいらっしゃいますよ。

北海道では家畜のエサにもなる飼料用とうもろこしやソルゴー、神奈川県の三浦半島では、土の中に棲む線虫(センチュウ)駆除に効果のあるマリーゴールドが育てられています」。

こちらは、緑肥作物のカタログです。

ひまわり、レンゲなどきれいなお花を咲かせる緑肥植物もあるのには驚きました。

「ほかにも、害虫を食べる益虫を呼び込むため、畑の外周に植える緑肥作物もあります」と、草野さん。

飼料用トウモロコシ「ロイヤルデント TX1277」は、雑草に負けない、塩類の除去、土を柔らかくして水はけをよくするという緑肥特性もあるのだとか。

(画像/タキイ種苗 提供)

私は、滋賀県の田んぼで、レンゲが栽培されているのを見たことがあります。

「レンゲなど、花の緑肥作物は景観をきれいに見せるので、町おこしにも使われます」と、草野さん。どこかの田畑で、お米や野菜以外の作物が育てられていたら、それは「緑肥作物」かもしれませんね。

家庭菜園やベランダのプランターでは「自然由来の肥料」がおすすめ

プロの農家さんは、「緑肥作物」を使うことで畑を元気にすることができます。しかし狭い家庭菜園では畑を休ませることをせずに、常に作物を育てているケースが多いようです。アブラナ科やマメ科など同じ仲間の作物を連続して栽培すると、土の養分のバランスが崩れてしまいます。

また、自宅の庭やベランダでのプランター栽培では、養分が失われた土をどうやって処分するのか、それとも土を再生させることができるのかという悩みもあります。

「きれいな山や森の腐葉土に住む『ダルマ菌』で発酵させた自然肥料を使うのも、ひとつの方法です。家庭菜園やプランター栽培を楽しむ方の多くは、安全な野菜を食べたい、楽しく土いじりをしたいという目的でしょう。農家さんのようにどんどん収穫量を増やす必要がないのであれば、自然由来の肥料をおすすめします」。

今回の取材で、自然のチカラを借りた「緑肥作物の栽培」という方法があることを知りました。さまざまな工夫をして、安全で元気な野菜や果物を栽培する農家さんに感謝したいですね。家庭菜園やベランダ栽培を楽しんでいるみなさんも、参考にしてみてくださいね。