冬になると、スーパーの店内入り口の一番目立つところにイチゴが陳列されているのをよく見かけます。ひと昔前は店頭に並ぶ品種が限られていましたが、今では大型のスーパーなら5,6品種があたりまえになっています。「とちおとめ」、「あまおう」、「紅ほっぺ」、「章姫」など、たくさんの品種の中から、お気に入りの品種を選ぶ、そんな時代に変わってきました。
日本にイチゴが入ってきたのは今から150年ほど前、江戸末期にさかのぼります。イチゴはオランダから導入され、最初は食用よりも観賞用としての栽培が主流で、品種も海外産のものでした。そんな中、明治後期になり日本独自の食用の品種「福羽(ふくば)」が誕生しました。これが日本のイチゴ品種の第一号になります。
この「福羽」は育てやすく、食味や香りに優れており1960年代まで栽培されました。同時に品種育成の交配親としても頻繁に利用されました。そして「とちおとめ」、「あまおう」など現在の主力品種のほとんどが何世代も経て、この「福羽」の血を受け継いでいます。現在私たちが美味しいイチゴを食べることができるのは、「福羽」のおかげかもしれません。
これまでに日本でイチゴの品種はどれくらい育成されているでしょうか?現在、品種出願されているものを含めると400品種近くになります。この数は品種登録制度が始まった1978年以降のもので、それ以前を含めるとさらに多くなります。
イチゴ品種は、都道府県や国関係の研究機関、種苗会社、個人の育種家などが主な育成者となっています。この中でもとりわけ産地のブランド品種を育成しているのは、都道府県や国関係の研究機関になります。スーパーや青果店でよく見かけるおなじみの品種です。
産地のブランド品種は、北は北海道から南は鹿児島県まで、実に38都道府県で育成されており、合わせると130品種以上にもなります。このように産地のブランド化が進んだのは2000年以降のことです。1996年に「とちおとめ」、2001年に「さがほのか」、2005年に「あまおう」、2007年に「ゆめのか」など、立て続けにブランド品種が育成されました。
大粒で食味のよいブランド品種が各地で栽培・出荷され、店頭に並ぶことから、「イチゴ戦国時代」と呼ばれるようになりました。イチゴブームの影響も受けて、2020年代に入った今でも戦国時代は続いています。
この1,2年、イチゴの主要産地から新しい品種が出荷され、店頭に並ぶようになりました。私の家の近くのスーパーで見かけるのは、栃木県産の「とちあいか」、佐賀県産の「いちごさん」、静岡県産の「きらぴ香」などです。これら地域では、これまで「とちおとめ」、「さがほのか」、「紅ほっぺ」が主力品種でしたが、新しい品種に変わりつつあるのでしょう。
「とちおとめ」、「さがほのか」、「紅ほっぺ」は、誕生してから20年以上経過しています。時代背景が変わり、次々と品種が生まれる中で、20年もの間、主力品種として君臨してきたことは、生産者や消費者に愛され続けてきた素晴らしい品種である証拠です。次にどんな品種が現れるか楽しみですが、慣れ親しんだ品種がなくなるのは若干寂しさも残ります。
全国にはたくさんのイチゴ品種がありますが、どの品種も簡単に手に入るわけではありません。全国どこでも購入できるのは、栽培面積が大きく、たくさん出荷している大産地のメジャーなイチゴ品種に限られます。その他の多くの品種は栽培しているご当地でしか購入できません。近畿地方でもそのような魅力的な品種がたくさんあります。
滋賀県では、初めてのオリジナル品種「みおしずく」が2021年に誕生しました。適度な酸味を持つさわやかな甘みが特徴です。
兵庫県では、糖度の高い「あまクイーン」と、大きな果実の「紅クイーン」の2品種が育成されています。
奈良県では、これまで主力品種の「アスカルビー」や「古都華」の他、それぞれ形や味に特徴のある「珠姫(たまひめ)」、「奈乃華」、「ならあかり」の3品種が続けて育成されました。
和歌山県でも「まりひめ」に続いて、病気に強く、早くから収穫できる「紀の香」が育成されています。
これら品種はご当地で栽培され、他県には出回ることが少ない品種です。これからの季節、各地域の観光農園や農産物直売所に立ち寄って、いつもと違うイチゴを味わうのはいかがでしょうか?