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ダイコン専門家に聞く!歴史や品種の違い、選び方…「知られざるダイコンのひみつ」

ナガオ ヨウコ

ライター/販促コンサルタント

ダイコン専門家に聞く!歴史や品種の違い、選び方…「知られざるダイコンのひみつ」

ナガオ ヨウコ

ライター/販促コンサルタント

ダイコンが美味しいこの季節、煮物やサラダ、おろし大根などさまざまな食べ方で楽しんでいる方も多いのではないでしょうか。今回は、京都の種苗メーカー「タキイ種苗」でダイコン・カブの育種開発に13年携わった“ダイコン専門家”の岡本 祐さんに、ダイコンの歴史や品種の違い、美味しいダイコンの選び方を教えていただきました。

日本のご当地ダイコンは約100種類! 品種がバラエティ豊かな理由は「土の違い」にあった!

“ダイコン専門家”の岡本 祐さん/大学院で植物栄養生理学を研究。「タキイ種苗」入社後は研究農場でダイコン・カブの育種開発を手掛ける。現在は広報出版部に所属し、農家さん向けのカタログ冊子の編集に携わる

「ダイコンはアブラナ科で、キャベツや白菜、水菜、ブロッコリー、小松菜の仲間です。もとの品種からキャベツや白菜、水菜、ブロッコリー、小松菜と徐々に細分化していったといわれています。

原産は地中海沿岸。地中海からシルクロードを通った北ルートのダイコンは『華北型』、東南アジアを経由した南ルートのダイコンは『華南型』と呼ばれています。日本のダイコンは『華北型』と『華南型』が自然交雑、または人間の手による交配でいろんな品種が生まれたといわれています」。

ダイコンの花

「日本で一般的なのは青首ダイコンです。しかし全国には、地方独自の在来種のダイコンが100種類以上あるといわれています。その理由のひとつは、土の違い。ダイコンは土の中で育つため、土壌の影響を大きく受けます。京都の粘土質で育つ『聖護院(しょうごいん)大根』、鹿児島の火山灰土で育つ、大きな『桜島大根』、大阪の長い『守口大根』は柔らかい沖積土(ちゅうせきど)で育ちます。

また、ダイコンは大きく重い『重量野菜』で、運搬に手間がかかります。そのため、地域で採れたダイコンがその土地で消費されることが多いのも、在来種が残っている理由のひとつです」。

鹿児島県の桜島大根

「このように、日本各地には独自のダイコンがたくさんありますが、育てやすさや味は一長一短です。神奈川県・三浦半島の『三浦大根』は煮ものにすると美味しいのですが、生で食べるのは不向き。愛知の在来種『宮重大根』は栽培に日数があまりかからない、みずみずしく柔らかいため生で食べると美味しい品種ですが、病気に弱い、輸送時に傷みやすいといった面もあります」。

「病気に強い」「美味しい」「安定収穫」は当たり前!? 近年の品種開発トレンドは「耐暑性」と「用途別」

ロングセラーダイコン「耐病総太り」

「タキイ種苗は、病気に強く、美味しく、収穫後に傷みにくいダイコンを作るべく研究を重ね、1974年に『耐病総太り』というダイコンを発売。<どの土地で育てても美味しい><栽培日数が短い><耐病性がある><太さや長さが揃いやすい>という4点が評価され、当時、全国で広く栽培されるようになりました。タキイ種苗では約50種のダイコン品種を取り扱っていますが、『耐病総太り』は、2024年に50周年を迎えたロングセラーを誇っています。誰もがきっと一度は口にしている、と言えるほどポピュラーな品種なんですよ。

農家さんがもっとも重視しているのは『安定して生産できること』と『面積あたりの出荷量=収益性』です。近年は、数十年前に比べて夏の気温が高い異常気象が続いています。ダイコンはビニールハウスではなく露地栽培で天気に左右されやすい野菜なので、気候に負けずに美味しく育つ品種が求められており、私たちもそのニーズに応えようとしています」。

用途に合わせて開発されたダイコンもある

「使用用途に合わせて開発された品種もあります。ダイコンは、生産量の約6割が業務加工用。業務加工用途として周年供給が必要ななかで、夏でも使える品種として『夏の翼』を開発しました。耐暑性があり、色が白く煮崩れしにくいという特徴があり、コンビニやスーパーマーケットのサラダ、おろし大根、おでん、刺身のツマなどに使われています」。

刺身に添えられるツマは青首部分の色が淡く、内部の白い部分が多いダイコンが好まれる

「『夏あおい』も加工用ですが、種まき時期により真夏の収穫も可能。曲がりが少ないため加工がしやすく、青首の範囲が狭いので上から下までムダなく使えて廃棄ロスが少ない品種です。多くの加工用途に向いているんですよ。

家庭菜園に向いているのは『三太郎』。家庭では、ダイコンを消費する量に限界がありますよね。こちらは収穫期を迎えた後、畑にそのまま植えっぱなしにしておいてもスが入りにくいので、食べたい時に畑から抜くことができます。秋、冬、春の3期栽培が可能で購入したタネを有効に使えます。また、株の間を狭くすると小さく、広くすると大きくなるので好みのサイズに育てられるというメリットもあります」。

美味しいダイコンを選ぶには 「鮮度」「毛穴」をチェック!

目で見て、触って確かめるのがコツ

「スーパーマーケットや直売所でダイコンを選ぶとき、一番にチェックしたいのは短い葉の部分です。多くの場合は葉がカットされていますので、短い葉がみずみずしい、黄変していないものは鮮度が高いと言っていいでしょう。

2番目のポイントは、触ったときに固さを感じられるもの。収穫から日数がたつと照りやツヤ、ハリがなくなり、ふにゃふにゃしてきます。

3番目は、毛穴がまっすぐ並んでいること。ダイコンは土の中で、ネジのようにらせん状にねじれながら根を伸ばします。暑さや土の固さなどストレスを必要以上に受けずに育つと、毛穴は比較的まっすぐになります。逆に、ストレスを感じたダイコンは苦みやエグみが出る傾向にあります」。

土から伸びた部分が寒さにあたると甘くなる

「カット売りのダイコンを購入する場合は、用途に合わせて選ぶことをおすすめします。ダイコンは寒さにあたった部分に甘みが乗ってきますので、煮物にするなら上半分。サラダなら中部、おろし大根なら水分が多く辛みのある下部を選ぶとよいでしょう。

ちなみに、辛いおろし大根が好きな方は皮ごとすりおろすのがおすすめです。皮には辛みのカプセルがたっぷり入っているからです。辛みのピークはすりおろしてから5分後。その後は辛みが減ってきますので、食べる直前にすりおろすのがおすすめです」。

スーパーマーケットと家庭菜園の ダイコンをすみずみまでチェック

スーパーマーケットと家庭菜園のダイコンをそれぞれの見た目、食味から、栽培や流通の状況を推測し、食べ方の提案をしていただきました。

「当社の研究所では、包丁の刃を縦にまっすぐに入れて全体をチェックしています。内部の水分や細胞の様子、黒っぽい部分がないかなどを見るためです」。

「スーパーマーケットのダイコンはややスが入っていて老化しています。よく見ると中心に白っぽいかたまりがあります。これはスカスカになる一歩手前ですね。上部は緻密ですがやや新鮮さが失われています。下部はパリッとしていますね。みずみずしさを感じられないのは、収穫から店頭に並ぶまで3〜4日かかっているから。おおむねですが、1日目に収穫して洗う、2日目に乾いたダイコンを出荷所に運ぶ、3日目に店舗に並びます。ややハリがないダイコンは、煮物にすると美味しく食べることができますよ。

こちらは取材前日の夕方に収穫した、知人の家庭菜園のダイコンです。10月1日とやや遅めの種まきで、収穫予定はこの日よりも1ヶ月後だそうです。

半割にしたダイコンをイチョウ切りにし、生のままかじって食味をチェック

「かなりみずみずしいですね。土の水分をしっかり吸っていることと、収穫して24時間以内という新鮮さが理由でしょう。葉は虫食いやトゲもなく、黄変した部分もありません。下部はダイコンならではの辛みがちゃんと出ています。しかし、上部はやや未熟さを感じます。これは、収穫期よりも早く引いたからでしょう。肥料がしっかり効いているので、このまま育てれば1ヶ月後には順調に太くなると思います。生育を早めたい場合は、葉の上から不織布を1枚かぶせるといいですよ」。

こちらは、ライターの私が持っている畑から抜いた、ダイコンの間引き菜です。今冬はダイコンを栽培するつもりがなかったのですが、10月中旬にタネをもらったので種まきをしてみました。種まきの適期からかなり遅れたため、根がまったく太っていません。

「ダイコンの間引き菜は、カイワレダイコンが成長した状態です。柔らかいので、生でも美味しく食べられますよ。みそ汁や豚汁、炒めものとして使うのもいいですね。間引きしたタイミングで追肥をおこなうと、根が太りやすくなります」。

上手に保存することで長持ち。1本丸ごと買ったダイコンを美味しく食べ尽くしたい

最後に、ダイコンの保存方法について教えてもらいました。

「もっとも気を使いたいのは保湿。濡らした新聞紙でくるみ、ビニール袋に入れて冷蔵庫で保存してください。冬なら日陰に立てて置いてもいいですよ。立てて保存するのは、土にいたときと同じ姿にすることで鮮度を保つことができるからです。

葉がついている場合は、とにかく早く葉を切り落としましょう。ダイコンは収穫後でも生きています。ダイコンは根に栄養をためているのですが、そのまま置いておくと中の栄養が葉に移動し、中の部分にスが入ります。葉は塩もみして漬物にしたり、刻んで炒めて常備菜にしたりと楽しんでくださいね」。

私たちは季節を問わず、いつでも美味しいダイコンが食べられます。しかし、ダイコンを一番美味しく食べられるのは、やはり冬。みずみずしいダイコンの選び方や部位の使い分け、保存方法を覚えておくと、ダイコンを美味しく味わうことができそうです。ぜひ、さまざまな方法で旬のダイコンを食べてみてくださいね。