8月23日は「油の日」です。今から約1200年前の859(貞観元)年8月23日、京都・大山崎にある離宮八幡宮で、日本で初めてテコの原理を応用した搾油機による製油が行われたと伝えられています。
このときに搾られたのは、シソ科の植物・荏胡麻(えごま)の種子です。当時の油は神事の灯火や宮中への献上品として用いられ、庶民が気軽に使えるものではない貴重な存在でした。
この歴史にちなみ、離宮八幡宮と1905(明治38)年に油販売店として創業したカネダ株式会社が共同で、8月23日を「油の日」と制定しました。
現代の暮らしにおいて、油は調理に欠かせない存在です。しかし、その歴史をたどると、油はもともと「食べるため」ではなく、「灯りをともすため」に使われていました。
旧石器時代には動物の脂肪が、紀元前3000年ごろからは搾油された植物油が、灯火の燃料として利用されていたと考えられています。
日本に植物油が伝わったのは3〜4世紀ごろ。中国から搾油技術が伝わり、カバノキ科の落葉樹・榛(はしばみ)から油を搾り、灯りに用いたのが始まりとされています。奈良時代には、すすが少ないごま油が重宝され、税として納められるほど貴重なものでした。
その後も植物油や蝋燭(ろうそく)は、明治時代に石油が輸入され、さらに電気やガスが普及するまで、暮らしを照らす大切な燃料として使われ続けました。
油の歴史が大きく変わったのは江戸時代です。改良された搾油道具「しめ木」が登場し、燈明油を採るための菜種(なたね)の栽培が全国へ広がりました。菜種は白菜や大根、カブと同じアブラナ科の植物で、菜の花を咲かせた後、サヤの中に小さな種子を実らせます。
種子の直径は約1〜2mm。これほど小さな種子を集めて油を搾るには、大変な手間がかかったことでしょう。こうして作られた菜種油は灯り用だけでなく、やがて天ぷらなどの調理にも使われるようになりました。
2025年の植物油の国内原油生産量は約160万トンで、そのうち最も多いのが約88万トンを占める菜種油です。江戸時代から人々の暮らしを支えてきた菜種油は、現代でも私たちの食卓にもっとも身近な植物油となっています。
私たちが調理でもっとも使う油といえば、「サラダ油」を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。サラダ油は主に大豆やトウモロコシなどを原料とし、複数の植物油をブレンドして作られることが一般的です。
日本では古くから、大豆は味噌や醤油、豆腐などの原料として親しまれてきましたが、油を搾るために利用されることはほとんどありませんでした。19世紀後半になると、大豆の一大生産地だった満州(現在の中国東北部)で生産された大豆油が、中国各地やアメリカなどへ輸出されるようになります。
1906(明治39)年には、設立されたばかりの南満州鉄道株式会社が大豆油の搾油研究を開始しました。大豆油工場を訪れた夏目漱石は、その消化の良さに驚き、「豆油の天ぷらを食べてみたい」と記しています。
のちに日本国内でも大豆油の製造が始まり、1924(大正13)年には、日清豆粕製造株式会社(現在の日清オイリオグループ)が「日清サラダ油」を発売しました。
「サラダ油」という名前は、冷やしても固まりにくく、生野菜のサラダにも使える油という意味から名付けられたといいます。実はこの「サラダ油」という呼び方は、日本独自のものです。
ただし、発売当初からサラダ油が生のままサラダに使われていたわけではありません。当時の日本では、食用油は揚げ物などに使うものという考え方が一般的で、生のまま口にする習慣はほとんどありませんでした。そのため、サラダ油はすぐに一般家庭へ浸透したわけではなく、マヨネーズの原料や揚げ油として使われるなかで、次第に家庭にも広まっていきました。
ちなみに、サラダ油がまだ高価だった1960年代には、サラダ油をからめて味をつけたせんべいが「サラダ味」として販売されました。「サラダ味」という名前には、おしゃれで高級感のあるイメージを演出する狙いがあったようです。
食用油にはさまざまな種類があります。調理面では、大きく「加熱に向く油」と「生で使うのに向く油」に分けられます。また健康面では、油の種類によって含まれる脂肪酸の種類やバランスも異なります。ひとつの油に偏らず、料理や目的に合わせていくつかの油を使い分けるのが理想です。
・菜種油(キャノーラ油)/米油
クセが少なく、加熱に強い万能タイプ。揚げ物にも向いており、カラッと仕上がります。
・ごま油
香りが魅力の油です。炒めものの仕上げや和え物に少量加えるだけで、風味がぐっと増します。太白(たいはく)ごま油は焙煎していないタイプのごま油で、香りが控えめなため、幅広い料理に使いやすいのが特徴です。
・オリーブオイル/えごま油/亜麻仁油
生で使うのに向く油です。エキストラヴァージンオリーブオイルはサラダやカルパッチョに、えごま油や亜麻仁油は味噌汁やヨーグルトに加えるのがおすすめです。
8月23日の「油の日」は、食用油の特徴を調べたり、普段使ったことのない油に挑戦したりするきっかけにもなります。料理に合わせて油を使い分けてみると、毎日の食卓が少し楽しくなるかもしれません。