北海道の代表的な昆布のひとつである日高昆布は、乾燥状態ではやや黒味を帯びた濃緑の昆布で、こくがあり、だしはもとより煮ものにも使われる。北海道南東の沿岸部、えりも岬から日高地域にわたる長い海辺で収穫される。この地域には無数の魚港が並び、浜という単位で昆布漁を営んでいる。
浜の位置や地形、流れこむ河川の源流の森の生態などによって、昆布の発育状況や味わいに違いがあるとされている。日高の浜は、関係者の経験に基づいて、それぞれ「特上浜、上浜、中浜、並浜」の4つに格付けされており、さらに同じランクのなかでもABCに細分される。浜に引き上げられた昆布を天日乾燥するための干し場の環境も味わいに影響すると専門家は言う。特上浜として井寒台浜、上浜Aには東栄、浦河、平宇、冬島、近笛の浜の名がある。
日高ほどではないが、他の地域の昆布にも浜による評価の違いはある。
もちろん高い評価の浜の昆布は高値で取り引きされる。ワインのぶどう畑は近接する畑どうしでも格付け違うことや、畑のぶどうから生産されるワインの質や価格に反映するのと似ている。
京都の料亭の一番だしとして珍重される稚内の利尻昆布は、味わいが淡く風味が上品で澄んだだしが引ける。礼文島、利尻島のいわゆる「島物」が特に有名で、利尻島には鷲泊、沓形、仙法志、鬼脇、礼文島には香深、船泊などの浜があり、両島とも島の中央に豊な山があり、川が周囲の浜に栄養素を供給していることが一目瞭然である。
乾燥した昆布の成分を比較したデータと専門家による味わいの評価から、人気の高い昆布の中で、道南の真昆布はうま味成分が非常に高濃度で濃いだしが得られる。利尻昆布は真昆布に比べてタンパク質や脂質の含量が低く、うま味は強くないが風味が上品である。道東の羅臼昆布はタンパク質やうま味成分に富み、油脂が少ない。そのだしは濃厚で上品と言われる。これらの海域の昆布は外見もおおきく異なっており、生育環境よりも遺伝子の違いによるところが大きい。
しかし、京都の料亭のご主人達は、同じ利尻昆布でも近接する浜によってだしの味わいが違うと言う。なかでも礼文島の香深浜の利尻昆布は最高級ブランドと定評がある。
そこで、利尻島と礼文島の有名な浜の昆布を、昆布卸専門店から入手し、京都の料亭のご主人でシニアソムリエでもある髙橋拓児氏の協力を仰いで、利尻昆布の浜の違いがだしの味わいに影響するかの実験を行った。髙橋氏は京都大学大学院生として共同で研究をおこなったこともあり科学実験の基本には習熟されている。
出典:(一社)日本ソムリエ協会「Sommelier.jp」