世界の良質な情報を独自の視点と切り口で伝える、国際ニュース週刊誌『Newsweek』の日本版。そのWEB版に、当サイトで「植物のおしゃべり」を執筆した、龍谷大学の塩尻かおり先生らの研究が紹介されました。
その内容は、論文「セイタカアワダチソウにおける植物間コミュニケーション」について。アメリカのN.Y.にあるコーネル大学教授アンドレ・ケスラー先生と塩尻先生らの国際研究チームが、12年間農薬をかけていた区画とそうではない区画で生育したセイタカアワダチソウをつかった研究成果を掲載するもので、学術雑誌『カレントバイオロジー』に発表したことがきっかけです。
「植物は、遺伝子型によって異なる匂いを持つが、まるでヒトの免疫系のよう」ということですが、研究者ではない私たちにとって驚くのは「セイタカアワダチソウがコミュニケーションをとっている」ということ。塩尻先生に聞いてみると…
編集部: そもそも先生は「植物と虫、植物同士も匂いでコミュニケーションができます」という研究をされていますが、それはどういうことなのでしょうか?
塩尻先生:植物は動けないし声が出せませんが、その代わりに匂いを巧みに操って身を守ります。それは、まるで言葉を話しているかのようなんですね。例えば、キャベツ。キャベツがすくすく育ってアオムシに食べられると、食べられたキャベツは、アオムシの天敵の虫が反応する匂いを発して「アオムシがココにいますよ。やっつけてよ」と、密告するように呼び寄せるわけです。
編集部:なるほど、確かに植物が虫に話しているようですね。
塩尻先生:つまり、植物と天敵の虫とが、匂いで通じ合っているということ。そうして、虫からの被害を受けにくくなります。これが、植物と虫とのコミュニケーション。だから、この匂いをつかえば天然の害虫防除も考えられます。ただ、匂いを発することはわかっていても、どこからどのように発しているのかは正確にはわからないですし、未知のことが多いので研究がすすめられているんですね。
編集部:植物と植物のコミュニケーションはいかがでしょう。
塩尻先生:植物が自分と同じ遺伝子をもっている個体を残そうとするといいますか、虫に食べられた植物が発する匂いを、元気な植物が受けると、虫に対する防衛反応ができるんですね。例えば、親となる植物が虫に食べられたとしたら匂いを発して「この虫にやられたらから気をつけて」となり、その子どもや親族が「あの虫に気をつけないと」となるわけです。植物の血縁関係が近いと香りもよく似ていることがわかっています。また、血縁同士のコミュニケーションの方が、血縁ではない植物同士のコミュニケーションよりも強いこともわかっています。
編集部:今回、『Newsweek』のWEB版で紹介された研究について簡単に教えていただけますか?
塩尻先生:害虫にいつもやられているグループ間と、12年間殺虫剤をまいて被害を免れてきたグループ間のコミュニケーションを比べました。前者は、血縁度関係なしに強く反応がおき、後者のグループでは、血縁同士では強く反応するが、そうではないと少しは反応するものの、そこまでは強く反応がおこらないという結果でした。
そこで発している匂いを分析してみると、前者グループの個体は同じような匂いを、後者は、あまり似ていない匂いを放出していた。それは、「みんな気をつけて」と情報をオープンにしているかのようで、誰でもわかる言葉を発している感覚ですね。
編集部: いつも害虫から被害をうけているような地域で育ったセイタカアワダチソウは、全体の生存維持が難しいと感じて防衛したのでしょうか。今まで研究されてきて初めてわかったことなんですね。
塩尻先生:そうですね。植物は、血縁関係が近い同じ遺伝子型の個体間でのみコミュニケーションをすると思われてきましたが、害虫からの攻撃を受けて発する匂いを、害虫の被害を受けていない且つ血縁でもない隣接する植物が吸収して、この匂いに反応して自己防衛の準備ができるということがわかったことは、なかなかおもしろい発見ですよ。
編集部:研究論文の責任著者は、コーネル大学のケスラー教授ですね。
塩尻先生:彼は「我々人間は情報を秘密にしたいとき暗号化するけれど、同じ現象が植物でも化学物質レベルで起こっている」といっています。まるでヒトの免疫系のように、緊急事態を周りに知らせる標準語があるみたいですよね。
編集部:論文が『Newsweek』のWEB版に掲載されたことについてはいかがですか?
塩尻先生:実は知らなかったんですよね(笑)。でも、とても嬉しいことです。実は、私は大学を卒業する時に、研究者や技術者と一般の方々をつなげるサイエンスコミュニケーターになりたいと思ったことがあって。植物がおしゃべりをするってことを知らない方々に伝えたいし、知って欲しいと思う気持ちが強いです。植物っておもしろいんですよ、ホントに!