グリーン・ツーリズム(※1)とは何でしょうか。もともとはドイツやオーストリアなどのヨーロッパからはじまり、農村地域でのバカンス(余暇)だといわれています。1970年代になると、農家の副業として農家民宿が本格化し、バカンスの一形態として生活に溶け込んでいきました。
日本の場合、1990年代前半から農林水産省が「農山漁村で楽しむゆとりある休暇事業」として全国からモデル地区を募集し、2000年に「食料・農業・農村基本計画」に明記されたころから確立されました。農業の衰退や農村からの人口流出など、農業情勢は悪化の一途を辿るなか、グリーン・ツーリズムは農村再生における新たなビジネスとして注目されています。
つまりグリーン・ツーリズムは、単なるツーリズム(観光旅行や保養地、行楽地での滞在)でなく、たとえ短期間であっても農村に滞在し、そこに住む人々とのふれあい、農村地域での体験を大切にする余暇活動といえます。同時に、農家にとってもビジネスとしての新たな収入源として期待されています。
※1 農林水産省では、「農村地域において自然、文化、人との交流を楽しむ滞在型の余暇活動」とされています。
このようなグリーン・ツーリズムは、3つの背景から起こってきました。第1に地域開発にともなう環境破壊であり、いきすぎた産業振興や土地開発への反省です。森林や農地を保全するため植生を復活させ、持続可能な農業をめざすことで、農家や農村を存続させる動きが高まりました。
第2に国民やインバウンドの余暇活動が変化したことです。高級リゾートなどを利用し余暇を楽しむのではなく、郊外へ出て静けさやおだやかさを求めて農村に滞在することを望むようになりました。
第3に第1次産業の生産額の縮小や農山漁村の社会的機能の低下、後継者不足が進んだことにより、農業所得の補てんを目的とした副収入への期待が高まったことです。「第二の軸足」「コミュニティ・ビジネス」と呼ばれていますが、その中心にグリーン・ツーリズムがあります。グリーン・ツーリズムの担い手は、当然農村の居住者であり、都市生活者も加わっていますが、近年の傾向として農村の女性が主役となっています。
次に、グリーン・ツーリズムを受け入れる側について、農家による主な取組を3つご紹介します。
1つめは「農業体験」です。かつては田植え、稲刈りなど重労働なものが多かったように思われますが、最近は果樹の収穫やハーブ栽培、ハム・チーズ・パン・アイスクリームづくりなど、体験そのものを楽しむ取組が多くなっています。また、体験以上に農家との交流が感動を呼ぶものになっており、欧米のインバウンドにも注目されています。
2つめは「農家民宿(ファーム・イン)」です。民宿の多くは旅館をモデルに経営するところが多いと思われますが、ファーム・インはヨーロッパの農家民宿の影響を色濃く受けています。提供する食事については、朝食に限定したサービスやバイキング、自炊方式などにすることで、リピーターを意識した経営をおこなう農家が増えています。宿泊施設に過度な設備投資をせず、過重労働にならないようにすることで、農家の負担を減らすための配慮といえます。
3つめは「農家レストラン」です。農家の重要な副業の1つとして位置づけられています。農村には道の駅・郷土料理店・サービスエリアなどさまざまな食堂やレストランが存在しており、農家が運営しているレストランであることが広告宣伝として大きな利点となっています。新鮮・安全・低価格であり、地域の食文化を提供できるうえ、農家の所得が見込める事業となっています。近年、農村女性の参画が増え、活気を帯びる経営となっており、農家でなければできないようなサービスや食事を提供し、知名度を上げている農家レストランも増えています。
さらに注目すべき形態として、地域経営型のグリーン・ツーリズムがあげられます。これは農業体験・農家民宿・農家レストラン・農産物の加工および販売を地域全体で連携して運営する、地域ぐるみの取組になっています。農家民宿の利用者に農業体験を仲介し、食事を自炊する場合は地域内の農産物を提供し、食事をとる場合は農家レストランを紹介するなど、幅広く連携することがポイントです。地域の組織がそれぞれの特徴を活かし、経営に関わることで独自性ゆたかな取組を実現し、地域全体に大きな経営効果を得ることができます。
私は日本の食料や農業の生産性について研究してきましたが、これは地域の食料や農業の状況が大きく影響していると考えています。特に人口減少傾向が進む地域においては、地域経営型グリーン・ツーリズムなどにより経営効果を得て農業を維持・成長させる必要があります。私のゼミでは、グリーン・ツーリズムを利用して、さまざまな農業体験(果樹関係:みかん、もも予定)をおこない、地域農業の成長を研究できればと考えています。