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絵本と食べ物のおはなし⑭『ぜったいたべないからね』―自我の育ちをおもしろがる!

生駒 幸子

龍谷大学短期大学部准教授、博士(人間科学)

絵本と食べ物のおはなし⑭『ぜったいたべないからね』―自我の育ちをおもしろがる!

生駒 幸子

龍谷大学短期大学部准教授、博士(人間科学)

絵本には、子どもたちが大好きな食べ物がたくさん登場します。一度食べてみたいと幼心に感じた人も多いのではないでしょうか。絵本研究者で龍谷大学短期大学部こども教育学科の准教授を務める生駒幸子先生に、絵本と食べ物の切っても切れない関係を語っていただきます。

<書籍データ>
ぜったい たべないからね
作:ローレン・チャイルド
訳:木坂 涼
出版社: フレーベル館※現在フレーベル館では取り扱いしておりません

<あらすじ>
お兄さんのチャーリーと妹のローラ、ふたりきょうだいのおはなし。両親はチャーリーに、「いもうとの めんどうを ちゃんと みてあげてね」「ごはんを たべさせておいてね」と言って出かけていくけれど、ローラは好き嫌いが激しいのでお世話は本当にたいへん。さて、チャーリーはローラにどうやってご飯を食べさせるのでしょうか。

「ぜったい食べない!」を受け止める

子育て中の親にとって、「子どもの好き嫌い」は尽きることのない悩みの種でしょう。私も身に覚えがありますが、どうにかして食べさせようと涙ぐましい努力をした経験がある方も多いのではないでしょうか。

今回ご紹介するのは、ローレン・チャイルドの『ぜったい たべないからね』という絵本です。これは、お兄さんのチャーリーと、好き嫌いの激しい妹ローラという、ふたりきょうだいのお話です。ローラは豆、にんじん、じゃがいも、きのこ、スパゲティ、たまごなど、多くのものを「食べないからね」と言い切り、特にトマトは「ぜーったい、たべないからね」と宣言します。

日本の絵本は、どちらかというと「しつけ」や「お手本」を示すテーマで描かれたものが多い印象があるのですが、子どもの「食べない!」という自己主張をタイトルで正面から打ち出しているところは新しいなと感じたポイントでした。

「食べないからね!」と自己主張できることは、子どもにとっての自我の表出に他なりません。この絵本では、子どもの感情や意見を「わがまま」と捉えずに「自我の表出」として尊重しています。
「食べなさい」ではなく、「食べないのね、そうなのね」と子どもの意思をまず受け止めることが、物語の核となっています。これは「自我」をきちんと認めているからこそだと言えるでしょう。

兄・チャーリーのユーモア

ここでお兄ちゃんのチャーリーは、頭ごなしに「食べなさい」と言うのではなく、また、「食べてね」とお願いするのでもなく、食べものを奇想天外な別のものに見立てるアイデアを思いつきます。

チャーリーは、にんじんは木星から届いた「えだみかん」、豆は地球の反対側から来た「あめだまみどり」に変身させます。そして最後には、ローラは「ぜーったい食べない」と宣言していたトマトを、自ら「まんげつぶちゅっと」と命名して食べてしまうのです!

チャーリーのこうしたユーモアは、子どもの「食べたくない」という気持ちを受け止めつつ、無理なく楽しく食べる意欲を引き出すというとても賢いやり方だと感じます。しかも、「木星から届いた」とか、「地球の反対側から来た」というストーリーを作ることで、ローラは興味津々で「じゃ、食べてみようかしら」という気持ちになるのです。すごく想像力が豊かなお兄ちゃんですし、妹の「ぜったい 食べないから!」をおもしろがっているようにも見えます。

私はというと、子育ての時期には余裕が全くなく「早く食べなさい」とイライラした態度で子どもに接していたと思います…。チャーリーのとびきりのユーモアに「この手があったか!」と感心させられますし、もっと遊び心をもって、そしておもしろがって子育てができたらよかったのに…と後悔しきりです。

新しい絵本表現:斬新なデザインとタイポグラフィー

ローレン・チャイルドさんの作品は、内容のおもしろさだけでなく、新しい絵本表現を開拓したことを高く評価され、2000年にイギリスで出版された絵本のうち、特に優れた作品の作家に贈られるケイト・グリーナウェイ賞(現在はカーネギー画家賞)を受賞しています。

ローレン・チャイルドさんの表現方法における新しい試み。その一つは、布や写真などの素材を切り貼りして絵を構成するコラージュによる斬新なデザインでしょう。作者は一時期、ランプシェードを作る仕事をしていたそうで、布がたくさん家の中にあったので布を絵本の絵に使うようになったと語っています。

もう一つが、文字の配置、字体や大きさなどをデザイン的に駆使するタイポグラフィーです。文字を波のような曲線状にして配置したり、ポイントを大きくしたり小さくする表現は、文字を図像として生かしたレイアウト構成だと言えます。さらに、登場人物のセリフの声のトーンや人柄までを、手書きのような字体、流れるような字体、乱れた字体などで示しているのも興味深いですね。

また、翻訳者である木坂涼さんの言葉選びも絶妙です。「あめだまみどり」や「ちんちくりん」といった表現は、チャーリーののびやかな想像力や、ローラの独特な感性をあらわしています。

『ぜったい たべないからね』は、子どもの自我を尊重し、そしておもしろがって、大人がユーモアと想像力をもって向き合うことの大切さを教えてくれます。子育ての時期はいっぱいいっぱいで余裕がなかった私ですが、この絵本を読むと「時間よ、戻ってくれ、もう一回やりなおさせてー!」という気持ちになります。

私の子育ては終わってしまいましたが、これからの生活や仕事のなかでも、周りの人と一緒に何かをするときに「わぁ、おもしろそう!」という気持ちになる遊び心を大切にして暮らしていきたいと思います。

【参考文献】
『2013年度国際交流事業報告集 国際講演会「あたしのなやみは無限大」・子ども向けワークショップ「絵本作家ローレン・チャイルドさんと絵本をつくろう!」』一般社団法人 大阪国際児童文学振興財団、2014年(pp.5-11,25-26)