前回のーボディーガードに連絡―で、植物は、虫に食べられると匂いを出して、その虫を食べる捕食性昆虫(天敵)を誘引するだけでなく、その匂いは食べている虫によって異なり、その時に必要なボディーガードに連絡するということを、お話しました。見事な、植物と天敵との連携プレーです。では、この植物と天敵の見事な連携プレーを前に、植食性昆虫はなすすべがないのでしょうか?実は、抜け穴があったのです。
コナガに食べられたキャベツはコナガに食べられたという匂いを出しコナガサムライコマユバチを誘引します。でも、モンシロチョウ幼虫に食べられたキャベツから別の匂いが出るので、コナガサムライコマユバチ(コナガコマユバチ)は誘引されません。それでは、コナガとモンシロチョウ幼虫に同時に食べられている場合はどうでしょう。この時には、コナガだけに食べられた時ともモンシロチョウ幼虫に食べられた時とも異なる匂いが放出されます。
写真 コナガ成虫 コナガはかわいらしい名前だが、農薬抵抗性の獲得が早く、難防除害虫
そのため、コナガに食べられたときに出される匂いを手掛かりにしていたコナガコマユバチは、コナガがいるにも関わらず、そのキャベツには行かなくなるのか行けなくなるのかは分かりませんが、来なくなります。当然、来なくなるわけですから、そこにいるコナガ幼虫はコナガコマユバチからの攻撃(寄生)を免れることができます。
さて、親は子供をもっとも安全な場所で育てたいと思うのは、人や哺乳類だけでなく虫だってそうです。適当に卵を産み付けていると思うかもしれませんが、そうではないのです。コナガの幼虫はアブラナ科を専門として食べる虫で、他の科の植物では育ちません。なので、コナガの母親(写真)はアブラナ科植物を探しだして卵を産む必要があります。
それだけではありません。コナガの母親がどのキャベツ株(健全株、パンチで穴をあけた株、コナガ幼虫にすでに食害されている株、モンシロ幼虫にすでに食害されている株)に卵をもっとも多く産卵するのかを調べてみると、なんと、モンシロチョウ幼虫によって食害されている株でした。モンシロチョウ幼虫に食害されている株にコナガが産卵すると、孵化したコナガ幼虫はその株を食害し始めるわけですから、その株はコナガとモンシロチョウが食害している株になり、先述したように、コナガの天敵、コナガコマユバチがあまり来ない場所になるわけです。
このように将来を見越して、コナガの母親は天敵が少なくなる場所に、卵を産み付けているのです。コナガの母親が何を手掛かりにして、モンシロチョウ幼虫の食害キャベツを区別しているのかは、まだ明らかにはなっていませんが、匂いだとすると、植食性昆虫もまた、植物と天敵の情報を盗み聞きして、上手く立ち振る舞っているなあと感心する今日この頃です。