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すべての植物は時計やカレンダーを持っている! ウキクサ博士が解説する「時間生物学」の不思議

村中 智明

龍谷大学 農学部講師、博士(理学)

すべての植物は時計やカレンダーを持っている! ウキクサ博士が解説する「時間生物学」の不思議

村中 智明

龍谷大学 農学部講師、博士(理学)

生き物が好きというより、複雑なシステムを解き明かすのが好きで、高校では化学と物理を選択した村中先生。大学進学後に、生物の巧妙な仕組みに興味を持ち、ウキクサという1cmに満たない植物を使って、植物が日の長さを測って花を咲かす時期を決める仕組みを研究してきました。野外での植物の観察・採取から、実験室での分子実験まで、フィールドとラボを横断する研究についてお聞きしました。

植物の「概日時計」は、人間の「体内時計」と同じ仕組み

植物には「毎年、春になると花を咲かせる」「朝に花を咲かせるけれど夕方にはしぼむ」「冬に近づくと枯れる」と、さまざまなタイプがあります。なぜ、植物は決まった時期や時間に花を咲かせたり枯れたりするのでしょうか。それは、すべての植物は、体内に時計やカレンダーを持っているからです。

私の専門分野は、植物の時間生物学。植物は、約24時間のリズムを作る仕組み「概日時計(がいじつどけい)」を持っています。私たち人間が「体内時計」を持っているのと同じです。

植物は、明るい時間が「夏は長い」「冬に近づくと短くなる」ということを知っています。昼夜のリズムをうまく使いながら、季節の変化も日長(にっちょう)の変化から捉え、どの季節に花を咲かせるかを決めています。

田んぼのウキクサでわかる「自分だけのカレンダー」

私が時間生物学の研究に使っているのはウキクサの仲間たち。ウキクサはサトイモやコンニャクと同じサトイモ科なのですが、そうはみえない小型の浮遊性植物です。最大でもウキクサの10ミリメートル程度であり、世界最小の顕花植物といわれるミジンコウキクサは1ミリメートルしかありません。小さくて実験室で育てることが簡単なので、古くから植物生理学の研究で用いられてきました。

こちらのイボウキクサは、元は1950年頃にシチリア島で採取されたもの。研究者たちによって植え継がれてきた系統で、日が長くなると花を咲かせます。

イボウキクサは日本には自然に分布しませんが、アオウキクサは日本各地の田んぼでよく見られます。イボウキクサとは反対に日が短くなると花が咲くので、秋に花を咲かせ、種で越冬します。先に株を増やしてから種をつけた方が、残せる種の数が増えます。そのため、なるべく水田にとどまって株を増やすという戦略をとっているようです。

この開花のタイミングの調整に使われているのが「概日時計」の仕組みです。冬が早く来る地域では早く開花し、遅い地域では遅く開花します。また、同じ地域でも、イネの品種や田植え、稲刈りの時期によっても開花のタイミングを変えています。

たとえば、滋賀県。コシヒカリはゴールデンウィーク頃に田植えをして、8月下旬に稲刈りをします。この場合、アオウキクサは早めに開花して種を落とします。一方、ヒノヒカリや山田錦のような晩生(おくて)の品種は6月に植えて10月頃に稲刈りをするので、アオウキクサの開花時期も遅めです。私は旅先などで水田から採集した約500系統のアオウキクサを研究室で維持して、開花タイミングの適応進化を研究しています。

日本のアオウキクサは、見た目はよく似ていても実際には性質が異なる系統が複数あります。最近の研究では、アオウキクサは異なる2種の交雑によって誕生し、両方から2セットの染色体を受け継いでゲノムサイズが倍となった「異質4倍体」となり、日本全国に広がったと考えられています。親と思われるのが、雪の多い北陸や東北に分布する「ホクリクアオウキクサ」、九州南部や南西諸島に分布する「ナンゴクアオウキクサ」で、この2種は日長に対する反応や低温耐性が大きく異なります。2つの親の異なる性質を受け継いだことが、日本全国に広がった理由かもしれないと考え、ゲノム解読をすすめています。

同じ種類の植物でも、それぞれが「自分だけのカレンダー」を持っていて、少しずつ違います。ただし、それは独りよがりなものではなく、外の環境にちゃんと同期・修正できるカレンダーでもあります。

ウキクサの概日時計研究に使うのは、ホタルの発光酵素

植物の生活リズムを測定する方法のひとつが、ホタルの発光にかかわる酵素「ルシフェラーゼ」の遺伝子を、植物に組み込むというものです。1990年代に遺伝子工学が発達して、植物に目的の遺伝子を入れられるようになりました。

時計と同時に動くように改変した「ルシフェラーゼ」の遺伝子を植物に導入します。ウキクサの場合は、約1マイクロメートルの金の粒子にDNAをくっつけて、植物の細胞(約40マイクロメートル)に打ち込みます。

その細胞に発光基質の「ルシフェリン」を与えると、「ルシフェラーゼ」がこれを分解して光を出します。「朝ですよ」と教える遺伝子と同じタイミングで「ルシフェラーゼ」が働くように設定すると、朝になると細胞が光ります。見た目にはわからないほど微弱な光ですが、高感度な測定器だと検出できます。

 

アオウキクサの実験では、10分おきに自動で発光レベルを記録。1週間にわたって観察します。アオウキクサの場合、開花する日長が1時間変わると開花日が約30日もズレてしまいます。だからこそ、解像度を上げて観察する必要があります。解像度を上げると、それまで気づかなかった情報が見えてきます。

このようにしてそれぞれの時計を測っていくと、周期が短いものは「早起き型」、長いものは「遅起き型」という違いが出てきます。どちらのタイプも、昼夜をはっきりさせた環境で育てると、24時間の周期に合わせて生活を始めますが、朝だと思う「主観的な」時間がズレるわけです。これを利用して、時計の周期を人為的に長くしたり短くしたりすると、開花時期を変えられることもわかってきました。

 

東京大学の先生によるイネの時計の研究では、葉を採取した時刻を、遺伝子発現のパターンから10分の精度で特定できるそうです。つまり植物は、10分単位くらいの精度で「今、何時か」を把握しながら動いている、ということです。

「寒くなったから咲く」「光が来たから光合成する」といった単純な反応ではなく、「そろそろ光が差すはずだ」というように、あらかじめわかった上で準備をする。そういう意味で、自然界のあらゆる生き物が、周囲の環境とシンクロしながら生きているのです。

脳がなくても、植物には「知性」がある

植物は常に情報処理を行い、さまざまなタイミングを決断しています。動物と違うのは、植物は脳を持っていないということ。植物は細胞の塊なのに、高度な処理をしていて、正確に時間や季節を捉える能力を持っています。私は、植物に高度な知性を感じています。

SFの世界では「宇宙人と会話をする」をテーマにした作品が多数ありますが、植物は宇宙人よりももっと異質でありながら、会話ができそうな存在。ただそこに生えているだけのように見えるかもしれませんが、実はいろいろ「考えて」いる。人間と植物は、共通の祖先からかなり昔に分かれて、それぞれ独自に進化してきました。だからこそ異質の知性体として見ると、とても面白い存在だと思います。

植物の中でもウキクサには巧みな戦略がぎゅっと詰まっていて、小さなウキクサに、大きなロマンを感じられずにはいられません。