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最新研究でわかった、世代ごとの食と健康。ライフステージ栄養学の専門家が教える、妊娠期・高齢期の体をつくる“今”の習慣

望月 美也子

龍谷大学農学部准教授

最新研究でわかった、世代ごとの食と健康。ライフステージ栄養学の専門家が教える、妊娠期・高齢期の体をつくる“今”の習慣

望月 美也子

龍谷大学農学部准教授

私は短大卒業後、総合病院や高齢者施設で栄養士・管理栄養士として働いていました。20代後半で大学に編入し、学士を取得。大学院を経て、現在は龍谷大学農学部で教壇に立っています。

専門は「ライフステージ栄養学」。「病気の人を健康にする」だけでなく、「健康な人をより健康にする」「病気を未然に防ぐ」ことを目指す学問です。扱う範囲は食事だけでなく、運動や睡眠にも及びます。

対象は、おなかの中にいる胎児から乳幼児、学生、中年、高齢期まで、一生の全てに及びます。

これまで患者様たちに栄養指導をするなかで、「そんなことができるわけがない」と言われたことも多々あります。現場で働いていた経験をふまえ、生活に寄り添う指導の大切さを痛感してきました。だからこそ研究や講義では理論にとどまらず、「日常の中で無理なく実践できること」を大切にしています。

「痩せすぎ」と「食べ過ぎ」。 20代前後の男女に広がる「栄養障害の二重負荷」

日本だけでなく世界でも、同じ世代・社会の中に「栄養不足による痩せすぎ」「栄養過剰による肥満」が共存する「栄養障害の二重負荷」が問題となっています。日本栄養士会もその解消を強く呼びかけていますが、20代前後では、ジャンクフードやコンビニ食への依存、自炊離れ、座りっぱなしの「不活動」による過栄養と、痩身志向による低栄養が同居しているのが実情です。

意外と知られていないのは、食べないダイエットによる低栄養状態が、将来の妊娠・出産にも影響するということです。SNSなどの影響もあり、小学校高学年ごろから「太ること」に強い恐怖心を抱き、「痩せなければ」という意識を持つ女性は少なくありません。

母親が痩せたまま妊娠すると、胎児は子宮内で栄養不足の状態にさらされるため、出生体重2500グラム未満の「低出生体重児」として生まれるリスクが高まります。学術研究「DOHaD(胎児プログラミング)説」によると、こうした状態で生まれた子どもは、将来的に糖尿病や高血圧などの生活習慣病の発症リスクが高まることが指摘されています。

昔の「小さく産んで大きく育てる」という考え方は、今は見直しが必要とされています。妊娠期の適切な体重増加量は11〜12キログラム程度ですが、それを満たさないほど食を控えた妊娠期は、子どもの将来の健康にまで影響を及ぼしてしまうのです。

また最近は男性の「摂食障害」も増加しています。「摂食障害」には食べられなくなる「拒食」、食べすぎてしまう「過食」の両方のタイプがあります。進学や就職など環境が大きく変わる時期に、ストレスが発症のきっかけの一つになることもあります。一方で、座りっぱなしの「不活動」による肥満に悩む人もいます。

働き盛り世代こそ実践したい 高齢期を見据えた「フレイル」対策

働き盛りの世代でまず意識したいのは生活習慣病の予防と、「フレイル予防」です。フレイルとは、加齢により心身が衰えた虚弱状態のことです。厚生労働省は約10年前からフレイル予防の普及に取り組んでいます。

以前は、『65歳前後で定年を迎えて家にいる時間が増える→食べすぎて生活習慣病が悪化する→高齢期に入ると食欲が落ちて痩せていく』という流れで考えられていました。当時は、食欲が落ちてきた高齢者に対してその都度「しっかり食べましょう」と呼びかける指導が中心だったのです。しかし現在は、食べられなくなってからでは遅く、50代からしっかり食べて筋肉量や活動量を保っておくことがフレイル予防につながることがわかってきています。

2025年にアジアのワーキンググループがサルコペニア(筋肉量や筋力の低下)の新しい診断基準を示し、フレイル予防を50歳から64歳にも基準値が設定され、中年期からサルコペニア対策が必要ということですね。

厚生労働省も国立長寿医療研究センターも「フレイルは早めに対処すれば、健康な状態に戻ることができる」としています。

日常でできるフレイル対策は「しっかり食べること」と「不活動を減らすこと」に尽きます。とはいえ、特別な運動をする必要はありません。私がよく伝えているのは「上りはエスカレーターを使ってもいいので、下りは階段を使いましょう」ということです。

かかとへの振動が骨を強くし、骨の健康維持につながるとされています。自宅なら、その場で10回ジャンプするだけでも有効的です。小さな積み重ねが、いつまでも自分の足で歩き続けるための土台になります。

睡眠も見逃せない要素です。認知機能の低下に関わるとされるアミロイドβというタンパク質は、40代から脳内に蓄積が始まるといわれています。アミロイドβを取り除く方法は、質の高い睡眠をとることです。国立長寿医療研究センターの研究では、睡眠中に脳内の老廃物が排出されることが示されています。夜遅くのスマホ視聴や睡眠不足が続くと、アミロイドβの排出が滞る可能性があります。

リセットにもっとも効果的なのは、朝起きてすぐに日光を浴びること。体内時計が補正され、質の良い睡眠につながり、将来の脳を守ることにもなります。

ビタミンDは「日光」と「食事」で効率よく摂る

日光を浴びることは、体内で「ビタミンD」を合成するためにも重要です。

ビタミンDは骨を強くするだけではないことが明らかになってきました。私たちの研究グループでは、細胞を用いた実験で脳の神経突起の伸長を促すことを明らかにしています。また、高齢者を対象とした調査では、ビタミンDの摂取が認知機能を維持する可能性を明らかにしています。

現代は美白ブームや日焼け止めの多用で、若者のビタミンD濃度は昭和期に比べ著しく低下しているといわれています。ビタミンD不足のまま女性が妊娠すると母乳のビタミンD濃度も低下し、赤ちゃんも不足に陥る悪循環が生じます。

日光に長時間当たることが難しい場合は、手の甲や足などを1日10分ほど日に当てるだけでも、十分な量のビタミンDが合成されます。

ビタミンDの、もうひとつの供給経路は「食品からの摂取」です。食品では紅鮭や白鮭、キノコ類にビタミンDが多く含まれています。ビタミンDは脂溶性のため、油と一緒に調理すると吸収率が上がります。水には溶け出ないので、茹でてもビタミンDが失われることはありません。

私自身が実践している「手軽な工夫」をご紹介しましょう。それは、調理前にキノコを10〜20分ほどベランダで天日に干すこと。太陽の紫外線を浴びると、キノコの中にあるビタミンDの量が増えます。

これから旬を迎える鮭とキノコを組み合わせたホイル焼きや炊き込みごはん、ちゃんちゃん焼きは、ビタミンDを手軽に補うことができるパーフェクトなメニューです。

私の研究グループでは、自閉スペクトラム症(ASD)の子どもを対象にした調査を進めています。ASDのお子さんは体内のビタミンD濃度が低い傾向があることがわかっており、濃度を高めることで症状の改善につながるかどうかを調べています。サプリメントでの補給は継続の難しさがあるため、現在は日光浴や外遊びを増やす方法を検証しています。

キクラゲにはビタミンDが多いことから、学内のゼミでは滋賀県内でキクラゲを生産している株式会社スマイディア様とも連携し、今後はゼミの学生と一緒にキクラゲを使ったレシピ開発にも取り組みます。

 

ここまで、20代前後から働き盛りの世代まで、それぞれの年代でできる工夫を紹介してきました。「これさえ食べれば大丈夫」という食品はありません。ライフステージごとに変化していく体と心に意識を向けながら、日々の「食べる」「体を動かす」習慣を見直して健康長寿を目指しましょう。

「下りは階段を使ってみた」「調理前にキノコを10分干してみた」。そんな日々のささやかな選択が、あなたの今を元気にし、そして30年後、40年後の健やかな未来を創り出していくのです。