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高齢者のフレイル予防へ。農学部生による健康レシピが商品化

Moglab編集部

MogLab編集部 取材スタッフ

高齢者のフレイル予防へ。農学部生による健康レシピが商品化

Moglab編集部

MogLab編集部 取材スタッフ

新型コロナウイルス感染拡大で高齢者の外出機会が減ったことで、心身の機能が低下する「フレイル」が懸念されるなか、「食」でフレイルを予防する取り組みが大津市・スーパーマーケット平和堂・龍谷大学の産官学の連携で行われました。農学部 食品栄養学科 石原健吾 教授の指導のもと、学生2名が6種類のオリジナルレシピを開発。大津市が主催する健康講座で配布されたお弁当に使われたほか、1品は平和堂の140店舗でお惣菜として販売されました。今回は、フレイル予防の取り組みと意義、学生によるレシピ開発の経緯についてレポートします。

フレイル予防啓発のため大津市・平和堂・龍谷大学が連携

大津市健康保健部長寿政策課 地域包括ケア推進室 原田真弓さん

「2021年、大津市で実施した高齢者アンケートでは『外出する機会が減った』が62%、『運動や体操の回数が減った』が27%という結果が出ました。また1人暮らし、もしくは夫婦2人暮らしの高齢者は、食事を買ってきた惣菜などで簡単に済ませる傾向があります。体を動かさない、栄養のある食事を摂れないとなると、身体機能や認知機能の低下による要介護手前の状態『フレイル』になる恐れがあります。高齢者に、元気に長生きしていただくために、運動と食を組み合わせて生活習慣を改善する必要があります。フレイル予防を広く啓発するため、農学部の学生にレシピ開発、平和堂さまに商品化と販売をお願いしました」。

2022年11月19日(土)、龍谷大学 瀬田キャンパスで開催された「お口と食のシニア向け健康講座」の様子

試食のお弁当には、学生2名が考案したレシピのおかず4品が使われました

「2022年10月から11月にかけ、大津市は『お口と食のシニア向け健康講座』を開催しました。体組成計やベジチェックの測定会、レシピや健康に関する情報の紹介、お口の健康と栄養の講話、簡単な体操、龍谷大学の学生さんが考案した惣菜をメニューに入れたお弁当の試食という内容です。琵琶湖グランドホテル、びわ湖大津プリンスホテル、龍谷大学 瀬田キャンパスで開催し、多くの高齢者の方に参加いただき、参加された方からは『生活の中に取り入れて健康を目指したい』という声をたくさんいただきました」。

「お口と食のシニア向け健康講座」では学生2名がレシピのこだわりについて話しました

「学生のお二人には、高齢者に不足しがちなたんぱく質を摂取でき、フレイル予防につながる美味しいレシピを開発していただき感謝しています。今後は、市の各事業で行うフレイル予防の取り組みで、メニューを紹介していく予定です。また、大津市のwebサイトでは高齢者向け惣菜レシピとして公開しています。多くの方にご覧いただき、日ごろの調理や健康管理にお役に立てていただければと思います」。

https://www.city.otsu.lg.jp/soshiki/020/1498/o/51508.html

「美味しくて、栄養豊富」にこだわった6品をレシピ開発

農学部 食品栄養学科4年生、石原ゼミに所属する(左)前田穂乃香さん、(右)小田垣萌衣さん

「今回開発したのは、6品です。カッテージチーズと鶏ミンチでたんぱく質を摂れる『かぼちゃのおかずさらだ』、鶏肉、はんぺん、うずら卵の3種類のたんぱく質を含む『つくね』、ツナ由来のたんぱく質、カルシウムたっぷりのひじきを使った『ひじきサラダ』、塩麹で漬け込みジューシーに仕上げた『やわらか鶏むねの塩麹の唐揚げ』、赤こんにゃくと枝豆で彩り豊かな『厚揚げのきんぴら』、麩でたんぱく質、牛乳のカルシウムの両方がとれる『丁子麩レンチトースト〜きなこソース添え〜』です。滋賀の食材である赤こんにゃく、丁子麩を使ったのもポイントです」。

前田さん

「レシピ作成で大切にしたのは“人に寄り添う”ことです。最初はレシピ本を参考にしていたのですが、オリジナルのレシピで、栄養があり、しかもきちんと美味しいという着地点を探るのが大変でした。商品化にあたっては食材の選定、調理法、コストの3つが難しかったです。農学部の実習室で試作を約10回繰り返し、石原教授やゼミ仲間にアドバイスをもらい、完成にこぎつけました。多くの方々に支えていただき、本当に感謝しています。私は小中高とサッカー部に所属、現在はフットサルを楽しんでいます。卒業後は食に関する会社に就職予定。管理栄養士として働き、ゆくゆくは公認スポーツ栄養士の資格をとり、アスリートやスポーツを楽しむ子どもたちに栄養のアドバイスができるようになりたいです」。(前田さん)

小田垣さん

「筋肉をつくるたんぱく質が豊富で、家庭でも作りやすいメニューというテーマがあり、栄養素の役割や健康科学など、龍谷大学で4年間学んだことをすべて込めてレシピを開発しました。食事そのものを楽しんでもらえるよう、美味しさと見た目の良さにもこだわりました。当初は3〜4品の予定だったのですが、主菜も副菜も、といろいろ考えているうちに6品に増えたのは誤算でしたが、楽しく取り組むことができました。レシピ開発に着手してから1年間、悩みながらなんとか前に進んできたのですが、平和堂さんの店舗で『かぼちゃのおかずさらだ』が並んでいるのを見た時は、努力が実った! と感激しました。私も前田さんと同じくスポーツが大好き。卒業後は大学院に進学し、スポーツ栄養学のなかで抗酸化物質の効果について研究をする予定です」。(小田垣さん)

学生が考案した『かぼちゃのおかずさらだ』を平和堂の約140店舗で販売

(左)平和堂 生鮮食品事業部 デリカ課 バイヤー 渡邊正憲さん、(右)株式会社ベストーネ 商品開発部 商品開発課 課長/管理栄養士 松林千華さん

「平和堂は、地域密着ライフスタイル総合(創造)企業として、地域共創の取り組みを行っています。スーパーマーケットでの商品販売だけでなく、地域のお客さまに元気になっていただくため、さまざまな事業をおこなっています。現在のテーマは『健康』『子育て』『高齢者』の3つです。地域が元気であるためには、高齢者が健康であることが大切です。大津市より『龍谷大学の学生が考案したフレイル予防レシピで商品を販売してほしい』というお話があり、地域のみなさまの健康を応援するためにも、学生2名とともに開発をスタートしました。印象的だったのは、学生2人の希望が“食べる人の気持ちを考えて商品を作りたい”だったことです。私たちは普段、“売れる”商品を目指して開発を行っているので、食べる人の気持ちをあらためて考えるきっかけとなりました。とはいえ商品として販売するには、衛生管理など安全面への配慮、調理工程の確認、コスト計算が必須となります。彼女たちの意見を尊重すべく、できる限り柔軟に対応し、商品として完成いたしました」。(渡邊さん)

売り場で目立つよう、パッケージには学生二人のイラストが描かれたシールが貼られました

「学生のお二人が考案したレシピのうち、商品化したのは『かぼちゃのおかずさらだ』です。かぼちゃは甘いスイーツ向きという固定概念がありましたが、学生のお2人から『おかずに使いたい』という提案をいただき、アイデアをほぼそのまま商品化することにしました。製造現場では衛生面から生の玉ねぎを使うことが難しいため玉ねぎの量を増やして茹でる、コクを足すために鶏胸肉の炒めミンチを加える、価格調整のためカッテージチーズをクリームチーズに変えるといった調整を行いました。その結果、価格を抑えつつも栄養たっぷり、とても美味しいサラダに仕上がりました」。(松林さん)

売り場に掲示された、フレイルと予防策について説明したPOP

「商品は、2022年10月から12月22日まで、滋賀・京都・兵庫・大阪・福井・石川・富山の平和堂140店舗で販売いたしました。高齢者だけでなく、幅広い世代にフレイル予防の重要性をお伝えできたと思っています。販売は2ヶ月限定でしたが、状況によっては定番化も考えています」。(松林さん)

フレイル予防策の継続には「美味しく食べる」が効果的

農学部 食品栄養学科 石原健吾 教授

「日本は高齢者の数が増えており、介護難民、老老介護、介護者の負担、社会保障費の増大など、介護問題の解決が課題となっています。加齢にともない筋力が衰えたり骨がもろくなったりすると、つまずいて骨折し、要介護状態になることもあります。2030〜2050年は寝たきりの高齢者が増えると予測されていますが、介護をするのは30〜50代の働き盛り世代となります。要介護の人を減らし、働ける人が生き生きと働くことができる社会を目指すには、フレイル予防が重要となります。フレイル予防に効果的なのは『しっかり食べる』『体を動かす』『社会に参加する』の3つです。高齢者、または予備軍の方々にこれらを日々の生活に取り入れていただくためには、食品として食べることで知識を自身のものとして身につけてもらうことが効果的です。龍谷大学の学生が考えたレシピが美味しかった、フレイル予防にいいそうだよ、と家族や近所の人たちと話題にすることもできます。

今回の取り組みは、ゼミで行っている社会貢献活動の一環です。カロリーや栄養計算も大切ですが、数値にとらわれることなく、美味しくて箸が進むようなレシピを作ってほしいと伝えました。どんなに健康に良いごはんでも、美味しくなければ食べずに終わってしまうからです。今回は親しみのあるおかずや昔懐かしい味も、学生の感性でどこか新鮮で美味しく仕上がったと思います。

彼女たちが目指す管理栄養士は、食を通して人と交流し、人を健康にする仕事です。今回の取り組みでは、一所懸命に頑張る2人を、大津市や平和堂のみなさまに引っ張っていただきました。大学で学んできたことを食品に落とし込み、社会と繋がるという良い経験ができたと感じています」。