記事トップ

水は「かたい」か「やわらかい」か
  • EAT&DRINK
  • 2018.09.21

水は「かたい」か「やわらかい」か

「かたい」と言う言葉、パソコンで漢字変換すると「堅い」「固い」「硬い」などなど、いろいろな漢字がでてきます。「やわらかい」だと「柔らかい」「軟らかい」ぐらいでしょうか。最近の日本語入力ソフトは大変素晴らしく、私のパソコンでは、ソフトの学習機能のおかげで、「いしがかたい」だと「意志が固い」になり、「みずがかたい」だと「水が硬い」、と変換してくれて、便利なことこの上ないです。ところで、パソコンが賢く変換をしてくれた「水が硬い」とは、よくよく考えるとよくわからない状態です。水は液体ですし、手で掴んだところで掴めるものではありません。「硬い水」とはどういうものを言うのでしょうか?食文化にも大きく関係していると言われている「水の硬さ」。その正体をくわしく見ていくと、「水の味」の本質が見えてきます。

「硬い水」と「軟らかい水」

最初に答えを言ってしまうと、水の硬さは、水の「硬度」というものが高いか低いかで決まってきます。つまり、硬度が高いものは「硬い水」、低いものは「軟らかい水」というわけです。それでは「硬度」とは一体何なのでしょうか?

硬度の正体は、水に溶けている「カルシウムイオン」の量と「マグネシウムイオン」の量を合わせたもののことです。簡単に言うと、カルシウムイオンとマグネシウムイオンをたくさん含んでいる水は「硬度の高い水」で一般的には「硬水」と呼ばれます。一方、カルシウムイオンとマグネシウムイオンが少ない水は「硬度の低い水」で、「軟水」と呼ばれます。

硬水と軟水の定義はいろいろあって、世界的に統一されているわけではないのですが、WHO(世界保健機関)による分類では、硬度60以下を「軟水」、60〜120を「中程度の軟水」、120〜180を「硬水」、180以上を「非常な硬水」としています1)。ちなみに、日本では一般的に100を境に、硬水と軟水を区別することが多いようです。

「お堅い」話が続きましたが、結局のところ、「硬い水」「軟らかい水」とは、その水に溶けているカルシウムイオンとマグネシウムイオンの量を表しているだけで、掴んでみて「硬い」か「軟らかい」かというわけではないと言うことになります。

硬度は何の尺度か?

時々、「この水は軟水なのでおいしくて飲みやすいですよ」とか、「この辺の水は軟水なので、○○のような料理に合うんです」みたいな話を聞くことがあり、あたかも、水の硬度が水の味や料理に関係する尺度のように捉えられている感じがすることがあります。もちろん、硬度は水の味や料理と深く関係しているのですが、元々はそれらとは全く関係ない尺度であることはあまり知られていません。

そもそも硬度とは、「石けんが泡立つか泡立ちにくいか」を表す尺度であり、石けんがよく泡立つものを「軟水」、泡立ちにくいものを「硬水」としました2)。「水が硬いので石けんが泡立ちにくい」、「水が軟らかいので石けんがよく泡立つ」という具合です。つまり、水を飲んで、「硬く感じるなぁ」ということで「硬水」と判断されるわけではない、というわけです。

とはいえ、人間は、水に含まれているカルシウムイオンとマグネシウムイオンを、味という形で検知することができます。また、調理のプロセスの中で、水に溶けている成分(溶存成分)は,食材との相互作用によって、できあがる料理の味に影響を与えます。その様なことから、硬度は、石けんの泡立ちに関する尺度としてよりも、水の味や料理に関係する尺度としてのほうが、感覚的になじみやすいのかもしれません。

「硬度」と「味」の関係

実は水の味は、硬度という尺度だけで表現できる訳ではありません。例えば、皆さんがよく知っている「塩」というもの。純粋な精製塩の場合、これは「塩化ナトリウム」という物質ですので、水に溶けると、水の中では「ナトリウムイオン」と「塩化物イオン」というものになります。水に塩を入れるとしょっぱくなりますが、このとき増えるのは、「ナトリウムイオン」と「塩化物イオン」だけですので、「カルシウムイオン」と「マグネシウムイオン」は増えません。つまり、水の中に塩を入れると味が変わりますが、硬度は全く変わっていないということになります(天然塩の場合、カルシウムやマグネシウムを含んでいますので硬度は変わります)。

実は、どんな天然水にも様々なものが溶けています。その中でも、次の8種類は大抵の天然水に含まれていて、主要8成分といわれています。
• ナトリウムイオン(Na+)
• カリウムイオン(K+)
• カルシウムイオン(Ca2+)
• マグネシウムイオン(Mg2+)
• 塩化物イオン(Cl-)
• 硫酸イオン(SO42-)
• 炭酸水素イオン(HCO3-)
• シリカ(SiO2)

これらの8つのうち、硬度に直接関係しているのはカルシウムイオンとマグネシウムイオンだけですので、硬度はそれ以外の6つのことはなにも表していないことになります(実際は、硬度が高いとそれ以外のものも多く含んでいる場合が多いので、全く関係が無いわけではありません)。最近販売されているミネラルウォーターの中には、硬度ではなく、これらの成分の中で多く溶けているものをクローズアップして、それを売り文句にしているものもあります(主要ではない成分を売り文句にしている場合もあります)。これらの成分は味に関係することもありますので、水の味を知るには、硬度だけではなく、それ以外の成分について考えるのも重要です。日本国内で販売されているナチュラルミネラルウォーターには、硬度といくつかの溶存成分の量がラベルに記載されています。幸いにして、国内で販売されているナチュラルミネラルウォーターは、一つとして同じ水質のものがないぐらいバリエーション豊かですので、ラベルに記載された成分を見ながら味の違いを楽しんでみてはいかがでしょうか。

<参考資料>
1) World Health Organization (2011): Hardness in Drinking-water, Background document for development of WHO Guidelines for Drinking-water Quality.
2) 半谷高久 (1995): 水質調査法 第3版, 丸善.

山田 誠

山田 誠

やまだ まこと

龍谷大学経済学部講師、 博士(理学)

大阪府出身。専門は水文学・温泉科学。京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻修了後、日本各地(西日本)の大学や研究所を2〜3年毎に転々とした後、2017年より現職。学部共通コース・環境サイエンスコースにて、水環境ゼミを担当。