相乗効果で大きくかさ上げしたうま味液を使うことは非常に重要である。うま味が強くなることで材料の匂いの影響が弱くできるからである。材料の匂いは実は厄介な問題である。天然にはうま味は単独では存在しない。うま味成分を多く含む材料から抽出する。だからうま味には材料の匂いがもれなくつきまとう。
鰹節や昆布にはそれぞれ独特の強い風味がある。これらの風味を、欧米人は魚臭いとかヨード臭がすると、嫌う人が多い。
昆布は代表的な天然のうま味と外国人に教えても、あのヨードの海藻臭と青臭さが先に立つと、美味しい味の解説にならない。日本人にはあまり苦にならないが、匂いの好き嫌いは、後天的な学習、つまり食文化によるから、改宗させることは難しい。
昆布と鰹節を贅沢に使い相乗効果を最大限に効かせただしは、外国人にはよくわかる。納得できる。しかし、一般家庭のだしでは、味噌や具材の匂いがうま味よりも強い印象を与えてしまうことが多い。うま味を特定するのは難しい。
うま味イコールMSGというのが生理学的には正しいが、日本人でも納得しない人がいるはずだ。MSGを濃くしただけでは、うま味の美味しさが十分とは思えない。質的に違うところもある。日本人の中でも、うま味のイメージは単純ではない。
甘味や塩味は適当な味と感じる濃度の幅が狭い。入れすぎるとすぐに甘すぎたり塩辛すぎることになる。ところがうま味は高濃度でも嫌になりにくい。適当量の幅が非常に広く、濃すぎることはない。
日本の料理では、うま味は低濃度から高濃度まで、下味から仕上げの味まで、様々に使われている。下味のうま味は、料理の後ろに隠れながら全体のトーンを整える。カレーのような油脂や香辛料を多用する料理でも、だしのうま味を強くすると全体の美味しさが格段に増す。うま味の味わいはなかなかしぶとい。
かつて、離乳食の味わいを格段に良くするプロジェクトに参加した。味付けを担当した料亭のご主人は、これまでの離乳食の具材はそのままで昆布だしを強化した。すると、全ての離乳食はそれまでのものより格段においしく、障りのない調和が得られた。バラバラであった味わいの角が取れて、全体がまとまる。うま味は、しばしば、このような形で姿を現わすのである。
料理に、低濃度の砂糖や酢を加えることで、酸味や甘味は特には感じられないが、味わいが分厚くなる。日本の料理では、うま味はしばしばこのような領域で働いているように思われる。
出典:(一社)日本ソムリエ協会「Sommelier.jp」