絵本には、子どもたちが大好きな食べ物がたくさん登場します。一度食べてみたいと幼心に感じた人も多いのではないでしょうか。絵本研究者で龍谷大学短期大学部こども教育学科の准教授を務める生駒幸子先生に、絵本と食べ物の切っても切れない関係を語っていただきます。
<書籍データ>初版1972年
しろくまちゃんのほっとけーき
作:わかやま けん
出版社:こぐま社
<あらすじ>
卵を割って、牛乳を入れて…。しろくまちゃんがおかあさんと一緒にホットケーキを作ります。上手に焼き上がったらこぐまちゃんを呼んで一緒に「おいしいね」。ホットケーキができるまでを見開きで描くページは、子どもたちから大人気。
1972年(昭和47)の初版発行以来、多くの子どもたちに愛され続ける「こぐまちゃんえほん」の一冊。タイトルが示すようにこの物語の主人公はこぐまちゃんと仲良しの「しろくまちゃん」です。
ちなみにシリーズ全15冊で一番売れ続けているのも、この『しろくまちゃんのほっとけーき』だそうです。『しろくまちゃんのほっとけーき』が一番売れている理由はいくつかありますが、ホットケーキを作ったり食べたりしている光景に子どもたちが魅了されるからではないでしょうか。
「こぐまちゃんえほん」の版元であるこぐま社は、1966年(昭和41)に絵本好きの編集者だった佐藤英和さんが創業しました。子どもたちがどんな反応をするのか研究し、絵本というものをより深く考えるため、佐藤さん自らが保育所に足を運び、子どもたちに読み聞かせをしていたそうです。佐藤さんから直接伺ったお話のなかで一番印象的なのが、この『しろくまちゃんのほっとけーき』にまつわるエピソードです。
この絵本のなかで子どもたちから一番人気があるのが、ホットケーキが焼き上がるまでの過程を見開きで紹介するページ。「ぴちぴちぴち」「ぷつぷつ」とおいしそうな音に、子どもたちも夢中です。
佐藤さんがある保育園でこのページを読み聞かせ、次のページへと移ろうとしたところ、ひとりの子どもが佐藤さんの側に駆け寄り「ちがう!」と言って前のページに戻しました。
佐藤さんは、もう一度読んでほしいのかなと思い、再びホットケーキが焼き上がるまでを読み聞かせ次のページに移ろうとすると、また同じ子どもが佐藤さんに向かって「ちがう!」と一言。3度目もまた「ちがう!」と言われて、佐藤さんも内心「しつこいな」と思ったそうです。
4度目にようやくその子どもも納得してくれたみたいで、佐藤さんが次のページに目を移したとき、おかあさんが4枚のホットケーキを運んでいることに気づきました。これほど子どもが真剣に絵を見ていることを知ったとき、佐藤さんは鳥肌が立つ思いをしたそうです。
「私たちも真剣になって絵本づくりに取り組んでいるが、子どもたちはそれ以上に真剣になって絵本を読んでくれている。今まで以上に襟を正して絵本制作をするきっかけになりました」と語っておられました。
こぐま社は、たったひとりの子どもであってもその絵本が読みたいと言ったときに渡せるよう、一度出版した絵本は絶版にしないそうです。絵本制作に真剣に取り組む佐藤さんと同社の信念を知って、私の心も大きく動かされました。こぐま社の絵本のように真摯になって子どもたちに向き合う絵本があることを、若い人たちに伝えることも私の使命だと思っています。
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