龍谷大学短期大学部こども教育学科で准教授を務める生駒幸子先生に、「絵本と食べ物」をテーマにおはなしを伺う連載企画。前回に引き続き、介護の領域で研究を行う短期大学部社会福祉学科の伊藤優子教授と、絵本と食べ物について語り合っていただく対談企画を、2回にわたっておおくりします。第2回目となる今回は、accototo ふくだとしお+あきこ『ひゅるりとかぜがふくおかで』という絵本です。
<書籍データ>
ひゅるりとかぜがふくおかで
作:accototo ふくだとしお+あきこ
出版社:幻冬舎
出版年:2008年
<あらすじ>
「食物連鎖」を題材に、「食べる」という自然の行い、「いのちをいただく」行為を描く絵本。作者のaccototo ふくだとしお+あきこは、ふくだとしお(toto)とふくだあきこ(acco)のユニット。絵本や絵画、壁画など、様々な作品を手がける。絵本の作品に『うしろにいるのだあれ』シリーズ(幻冬舎)、『ポポくんのミックスジュース』などのポポくんシリーズ(PHP研究所)、『ごちそうさま』『いただきます』(大日本図書)、『なに まってるの?』(文溪堂)、『そんなにみないでくださいな』(KADOKAWA)など多数。
伊藤:この絵本は、私が大好きな一冊です。もともと絵本が好きで、命に関する授業をするための教材を探しているときに、この絵本と出会いました。「食べる」ということの本ではあるのですが、テーマは「食物連鎖」、つまりは命をいただくということです。イラストはもちろん、文章もとても綺麗で、ぜひ音読していただければ、その良さが伝わると思います。
生駒:伊藤先生に実際、この絵本を音読していただいて、とてもよく練られた文章だと感じました。
伊藤:生き物が食べられてしまうということに恐怖を感じる子どもがいるかもしれません。だからこそ、イラストや文章を綺麗にしているのでしょうね。とても奥深さを感じます。虫や魚、鳥、ヘビ、ウサギ、人間…、色々な動物が登場します。舞台も海や山、空と色々。テーマが食物連鎖なので、大人はつい命の尊さや大切さを読み取りたくなりますが、まだ食物連鎖がわからない子どもにとっては、生きものが食べる-食べられるの流れを、感情移入なくただ眺めているだけかもしれません。
生駒:私たち人間を含め、動物は生きるためには食べなければいけません。その食物連鎖は、絵本を読めば伝わるのではないでしょうか。
生駒:作者のaccototo ふくだとしお+あきこさんのことを、この絵本を通じて知りましたが、おそらくグラフィックデザインに携わっておられた方ではないかと。この『ひゅるりとかぜがふくおかで』という絵本も、デザイン的にとても優れていますね。見開きごとの絵はもちろん、配置やバランスも美しく、植物の葉も、色や種類ごとに細かく描き分けています。
グラフィックデザイナー出身の絵本作家といえば、『はらぺこあおむし』で有名なエリック・カールや、『スイミー』で知られるレオ・レオニなどが挙げられますが、どれも絵の美しさが際立ち、読者を魅了します。
『ひゅるりとかぜがふくおかで』を読んで思い出したのが、イエラ・マリ エンゾ・マリ作『りんごとちょう』という絵本。文字が一切なく、ビビッドな色使いの絵から想像力をかきたてて物語を読み進めます。この絵本もテーマが食物連鎖なのですが、自然の摂理について文字を使わずに描いています。デザイナーさんってほんとすごいですね。
伊藤:特にこの絵本は色遣いも美しく、言葉も詩のように綺麗で、食物連鎖がはらむ残酷さを優しく包んでいるようです。
生駒:描き方もどこか淡々として、感傷的ではないですよね。読み聞かせをする人のなかには、子どもに強く訴えかけようとして自分の言葉を差し挟む人もいますが、私はあまり好ましいと思いません。作家、画家は言葉と絵の役割やバランスを吟味して、絵本作りをしていますから、作品と子どもを信じて読み聞かせをすればよいのではないでしょうか。絵本は100人いたら100通りの読み方があります。読み手は黒子に徹して、文字を読まない子どもに対して、絵本の言葉を声にして届けるのが役割だと考えています。ですから、絵本を読み聞かせるときは、なるべく抑揚をつけずに作品の持ち味をそのまま素朴に伝え、子どもと作品の出会いを阻害しないようにするとよいと考えています。
伊藤:子どもは、作者が読み取ってほしいと考えるメッセージ以外のものまで読みますよね。
生駒:すぐれた作品は、読者に全てを委ねています。この絵本は、伊藤先生の声で読んでもらわないと、私は言葉の美しさに気づかなかったかもしれません。
伊藤:音読するとメロディのように心に入ってくるんですよね。
生駒:物語の最後が10年後というのもいいですね。食物連鎖は続きますが、山は変わらずその光景をじっと見守っている。時がどんなに流れてもかわらずに見守っている存在がある。また小さな命のつながりは、時の流れのなかで連綿と続いていく。そのような生命の不思議な連鎖を静かに物語っているようです。
伊藤:絵本の言葉においても同じ繰り返しをするのではなく、たとえば、果実が木から落ちる際の音にも変化を加えています。こういった細かく表現を変える姿勢も素敵だなと。
生駒:ぜひ、この絵本を学生に紹介したいです。
伊藤:子どもの時、淡々と読んでいた絵本を、大人になって、読みなおしてみて「こんなお話しだったのか!」という新しい発見に出会えるのも、絵本の魅力だと感じています。前回ご紹介したかこさとしさんの絵本もそうですし、絵本に限らず小説なども同様に、初読で気づかなかったことも、何度も読み返すことで新しい発見に出会える。それも本の読み方の魅力の一つだと思います。
【今回の対談者】
伊藤 優子(いとう・ゆうこ)
龍谷大学短期大学部社会福祉学科教授
大阪府出身。私自身は、食べることも作ることも大好きで、最近は、地方の名物のお取り寄せや新発売のお菓子探しにはまっています。
介護の場面でも「食」は、生きるためにも、生活を豊かにするうえでも大切なものですが、
今日食べたものが、未来の体をつくるというのは、「本」を読むことと似ているなと思っています。