TOP / Agriculture / 稲作は温暖化防止の要?

植物の生育に必須なカリウムとは

作物の必須元素は窒素、リン、カリウムの3つです。作物栽培においてこの3つの元素は、三要素と呼ばれます。明治時代から人口が急激に増加した日本では、効率良く肥料を使って食料を確保するために三要素試験と呼ばれる3つの肥料を加減した栽培試験が行われてきました。その歴史は古く、100年近くに及ぶものもあります(愛知県、兵庫県、福島県の農業試験場など)。そうした試験の中で、何人かの研究者が不思議な結果に気づいていました。それは、カリウム肥料を与えない試験区で稲が良く育つことでした。

2005年から農研機構(国の農業試験場)の水田で、11年間にわたってカリウム肥料を与えないで稲を育てる栽培試験が行なわれました。その結果、やはり稲の収量は全く減少しません。そればかりか、河川から供給されたカリウムや土の中に存在している(交換態)カリウムイオンの量よりも稲が吸収したカリウムの量の方が多いという事がわかったのです。では、稲の吸収したカリウムはどこから来たのでしょうか?

稲は動くことはできないので、稲が根を伸ばして接触できるカリウムを含む物質は岩石鉱物です。しかし、鉱物の水に溶けるスピードは非常に遅いため、「稲が岩石鉱物を自分で破壊して、鉱物中のカリウムを吸収してしまった」と考えるしかありません。岩石鉱物の主成分は、ケイ酸とアルミニウムです。カリウム肥料を与えなかった稲にはケイ酸が多く含まれていることも分かりました。しかし、稲にはアルミニウムが全く含まれていませんでした。アルミニウムはどこに行ったのでしょうか。そこで、稲の根元の土壌を調べると、アルミニウムが増加していることが分りました。これらのアルミニウムのほとんどが、有機物に吸着して沈殿していました。この有機物とアルミニウムの結合体は,マグネシウムなどの稲に必要な養分の貯留場になります。
驚いたことに、稲は自分で岩石を壊してカリウムやケイ酸を体内に取り込むだけでなく、自分には不要なアルミニウムと根元にある有機物を使って養分貯留場を作り、自分たちの生育環境をより良く整えていたのです。

栽培試験の田植えの様子:龍谷大でもカリウム吸収量の異なるイネ品種を使って炭素蓄積が起こるかを確認しました

新たな地球温暖化対策として

我が国のカリウム肥料は100%が輸入に頼っています。持続的な農業を行うためには、稲のこのような特性を利用して減肥することも大切だと思います。また、稲の根元に生じたアルミニウムは有機物(炭素)を土壌に蓄積させるのには必要不可欠な物質です。

収穫時のイネ:カリウムとケイ酸の吸収量が最も高い品種(北陸193,左4列)の根元の土にアルミニウムが最も多く蓄積していました

稲はカリウムが足りないと人知れず根元の鉱物を壊して養分を吸収し、残ったアルミニウムに炭素を溜め、地球の炭素貯留にも大きな役割を担っているのです。アジアには膨大な水田があります。稲栽培におけるカリウム肥料の減肥が地球温暖化を止める有効な手段となるのかもしれません。