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島先生の発酵よもやま話 第9回 寿司レボリューション

島 純

龍谷大学農学部生命科学科教授、博士(農学)

島先生の発酵よもやま話 第9回 寿司レボリューション

島 純

龍谷大学農学部生命科学科教授、博士(農学)

日本最古のお寿司

鮒寿司のように、魚を塩とご飯とともに発酵させた食品をなれ寿司とよびます。秋田県のはたはた寿司など主に日本海側で様々ななれ寿司が作られています。
現在、日本で作られているなれ寿司の中で、鮒寿司はもっとも古い方法で作られていると考えられています。つまり、日本で最も古いお寿司といえるのです。

香りもマイルドに

鮒寿司の発酵には、乳酸菌という微生物が重要な役割をはたしています。乳酸菌はその名のとおり乳酸を作る微生物です。乳酸は酸っぱくて身体によい物質です。それに加えて、他の微生物を抑えるはたらきがありますから、鮒寿司の日持ちがよくなるのです。
さらに、乳酸は鮒寿司特有の香りをマイルドにしてくれるはたらきもあります。このように、鮒寿司の製造に乳酸菌はなくてはならない存在なのです。
現在では主流となったにぎり寿司はご飯にお酢を混ぜてつくりますが、にぎり寿司の元になったなれ寿司では、乳酸菌がじっくり作った乳酸がご飯に含まれています。

私たちの仮説

私たちのグループでは、鮒寿司に含まれる乳酸菌について研究を行っています。乳酸菌にはとても多くの種類がいるのですが、販売されている鮒寿司の製品からはブフネリ菌という種類ばかりが見つかります。おそらく発酵の途中では、いろいろな乳酸菌が存在していたはずなのですが、発酵が進んで製品になる頃にはブフネリ菌ばかりになるのです。他の乳酸菌は持っていないすごい力があるのかもしれませんね。
研究で少しわかってきたことは、ブフネリ菌は乳酸の一部をお酢に変えているかもしれないということです。そうすると、鮒寿司では乳酸に加えてお酢の風味も強くなってきます。

まだ仮説の段階なのですが、当時の人々がお酢の風味のお寿司も美味しいなあと感じ始めて、そして、それがにぎり寿司に変わっていった原因の一つになったと考えています。ただ、正確な答えを出すまでに、研究にまだまだ時間がかかりそうです。

[ひと口メモ]鮒寿司のご飯、昔は捨てていた
鮒寿司のご飯が好きという人は少なくありません。ところが、独特の強い酸味と匂いを嫌う人が多く、室町時代より前は食べずに捨てていたそう。ちょうど、ぬか漬けのぬかを洗い流すのと同じですね。米は貴重品。鮒寿司を食べられるのは上流階級だけだったと言われています。

出典:「島純の発酵食」『滋賀民報』