世界の離乳食シリーズ、今回はヨーロッパへトリップ!美食の国と言われ、独自の食文化に伝統と誇りを持つイタリアを取り上げます。
老若男女食べることが大好きなイタリア人は、一体なにを食べて育つのでしょうか。調べてみると、「これぞイタリア料理!」という食の原点が離乳食にも見えてきました。ちなみにいわゆる“「イタリア料理」というものはない“と言われるくらい、ローマ料理、シチリア料理、ミラノ料理などイタリアは地方ごとに特色豊かな郷土料理がありますが、ここでは一般的に知られているイタリア家庭の離乳食を取り上げます。
イタリアの離乳食開始は約生後4ヶ月〜6ヶ月。最初はりんご、洋梨、バナナなどのフルーツのすりつぶしから始めます。伝統的な食に誇りを持つ人が多いイタリアでは、ヨーロッパの他の国に比べると比較的手作りをする人が多いのですが、フルーツに関しては衛生面・安全面から市販品が推奨されています。イタリアの市販離乳食は安全基準が非常に厳しく、オーガニックが基本。一般的なスーパーに売られているフルーツを買ってきて自分ですり潰すよりも、離乳食用のフルーツペースト瓶詰めの方が、安心して食べさせられるという考えです。
フルーツに慣れてきたら、次はじゃがいもやセロリ、ズッキーニ、ニンジンなどの野菜のブロード(細かく刻んだ野菜を出汁が出るまで煮込んだミネストローネスープのようなもの)と、その具材を裏漉しして作ったポタージュスープを食べます。
次のステップはそのブロードやポタージュに、パスタの原料となるデュラム・セモリナ粉(小麦の一種)やお米の粉、とうもろこしの粉などを溶いてお粥のようにしたものや “pastina”(パスティーナ)という極小のパスタを煮て混ぜるなどして食べます。
しかし近年イタリアではグルテン・アレルギー*の人がとても増えているため、セモリナ粉やパスタは様子を見ながら、と指示する小児科医も多いそうです。
*小麦に含まれているタンパク質“グルテン“によるアレルギー。
ちなみにイタリア料理に欠かせないトマトや玉ねぎは、日本では離乳食初期から食べてもよい食材とされていますが、イタリアでは少し遅めの11ヶ月頃からと言われています。というのもイタリアではトマトアレルギーも増えているからです。
日本ではあまり聞かないトマトアレルギーですが、初めて食べる時やたくさん食べた際に痒みが出る赤ちゃんもいるということなので日本でも注意した方が良い野菜かもしれません。
玉ねぎもお腹を壊しやすいという理由から肉や豆類よりも後の1歳ごろから与える家庭もあります。玉ねぎを切った時に涙が出る原因となる物質「アリシン」を過剰摂取することで胃酸が出すぎたり、腸の動きが活発になりすぎてしまうとか。(適量を守り、しっかり加熱してアリシンを減少させれば防ぐことができるので、過剰に恐れることはなさそうです)
アレルギーに配慮しながら1年かけてゆっくりとさまざまな種類の食材を食べさせて、丈夫な胃腸を作っていこうという考えがイタリアの離乳食の根底にある大事なポイントです。
そして胃腸が食べることに慣れてきた7ヶ月ごろには、野菜スープ+穀物の粉のおじやのようなものに、オリーブオイルとパルミジャーノチーズを加えていきます。この2つが入るとザ・イタリアンという感じがしますね。
日本の育児書では「油脂はできるだけ避けるように」と書かれていますが、イタリアの離乳食にオリーブオイルは欠かせません。もちろんその時に使うオリーブオイルは、新鮮なエキストラ・ヴァージン(オリーブの実を絞っただけのジュースのような油)のみ。
エキストラ・ヴァージン・オリーブオイルに含まれるオレイン酸という脂肪酸は、母乳にも含まれている成分で、赤ちゃんの骨や脳の発育にとってとても大事な栄養素。また必須脂肪酸(リノール酸とαリノレン酸)の比率も母乳ととてもよく似ており、オイルとはいえ胃腸の負担にならず、とても消化に優しいのです。
その他ポリフェノールやビタミンEなどの抗酸化成分も豊富に含むため、乳幼児の発育増進にはとても適しています。イタリア、スペイン、ギリシャなどの地中海沿岸の国々では古くから離乳食にオリーブオイルを用いていたそうですが、とても理にかなっているのですね。
一方、日本でもお馴染みのチーズ、パルミジャーノ・レッジャーノもイタリアの伝統的な食材。タンパク質やカルシウムを多く含み、小さじ1杯で赤ちゃんが必要な1日分のカルシウムを摂ることができます。こちらは、できれば24ヶ月以上熟成したものがよいそうです。パルミジャーノ・レッジャーノは、熟成が進むほどにタンパク質や脂肪が小さく分解されて、消化吸収がしやすくなります。長期熟成されたチーズは、うまみ成分であるグルタミン酸もたっぷり!離乳食に美味しいコクを与えてくれます。チーズは他にもリコッタチーズやクリームチーズなどの柔らかいものも食べさせるそうです。
8ヶ月頃になるとイタリア人の主食であるパスタを食べはじめます。さすが、パスタの国だけあってクスクスのような粒々パスタから小さなマカロニのようなものまで赤ちゃん用にもたくさんの種類が売られています。パスタも野菜のスープで柔らかく煮て、オリーブオイルとパルミジャーノをオン。これは、間違いなく美味しいですね!
野菜や穀類で胃や腸が強くなってきたら、次はタンパク質。日本では魚→肉と進めることが多いようですが、イタリアは逆で、まずはお肉から。
お肉も基本的には瓶詰めが推奨されています。鮮度のよい肉を衛生的な環境で加工した瓶詰めは、自分で生肉を加工するより安全だと考えられています。日本では肉の瓶詰めはあまり目にしませんが、イタリアでは、牛、鶏、豚以外にも、子牛、ラム(子羊)、七面鳥(ターキー)、うさぎなど各種のお肉をペーストにした瓶詰めが売られています。塩やスパイス、添加物は含まれていない純粋なお肉のペーストです。まずは淡白な子羊、うさぎ、ターキーからはじめ、順に鶏、豚、子牛、牛と食べていきます。
魚もさまざまな種類の瓶詰めが売られており、肉や魚を調理する手間が省けるので親にとっては嬉しいです。そして、この頃からお豆もレパートリーに加わります。ヒヨコ豆、レンズ豆など豆類も種類が豊富。これらを柔らかく煮てクリーム状にし、オリーブオイルを加えれば、離乳食とは思えない立派な一皿になります。
素材を生かしてシンプルに美味しく仕上げるイタリアの離乳食。イタリア人がグルメになるのも納得です。一方で、イタリア人は食に対してはヨーロッパで最も保守的とも言われており、イタリア料理以外は食べないという人も多いどころか、他の地方の郷土料理はほとんど食べないという頑なな人もいるそうです。グローバルに展開するファーストフード店も数がとても少なく、コンビニもほとんどありません。自国の食文化に誇りを持ち、それを守り続けている人がいるからこそ、イタリア料理は世界中の人々にとって魅力的に映るのかもしれませんね。きっと離乳食もずっと昔からほとんど変わっていないのでしょう。それがイタリアの良さでもあると思います。
そして大家族が多いイタリア人は、家族との食卓を何より大切にすることでも知られます。仕事が終わればまっすぐ家に帰って家族と夕食を共にするのが当たり前。休日は祖父母や兄弟、友人たちと集まってワイワイ食卓を囲み、ゆっくりと語り合うのが何よりの楽しみです。もちろんメニューは、地元の食材をマンマ(お母さん)から引き継いだレシピで調理した自慢料理。子どもたちはそんな食卓のなかで家族との絆を深め、食や料理についても自然と学んでいきます。もちろん、赤ちゃんも!栄養たっぷりの離乳食を家族団欒の食卓で食べることで、心にも栄養を摂って育っていくのですね。
愛に溢れたイタリアの離乳食、いかがでしたでしょうか。日本でも取り入れられそうなポイントがたくさんありそうです。