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「今、もっとも贅沢な京料理」〜龍谷大学×日本料理アカデミー シンポジウム報告<前編>

Moglab編集部

Moglab編集部 取材スタッフ

「今、もっとも贅沢な京料理」〜龍谷大学×日本料理アカデミー シンポジウム報告<前編>

Moglab編集部

Moglab編集部 取材スタッフ

京都・老舗料亭の料理人たちが中心となり、日本料理の文化継承と発展のために活動するNPO法人「日本料理アカデミー」。同アカデミーの活動の一つに、龍谷大学の研究者との協働研究があります。京都大学を拠点としていた時代をあわせ、これまで約13年にわたり行われてきた研究活動では、「日本料理のテロワール」「食感の日本料理」など1年ごとにテーマを掲げ、料理人と研究者がディスカッションや実験を繰り返してきました。そのなかで、日本料理の伝統の中で感覚的に受け継がれてきたものを科学的な視点で分析し、理解を深めてきました。

成果発表の場となるシンポジウムは2015年より毎年行われています。コロナ禍では対面開催が控えられたため、2021年にはオンライン無観客開催でしたが、今回は3年ぶりの対面開催となりました。

今年度のテーマは「今、もっとも贅沢な京料理」。2023年2月、京都市で開かれたシンポジウムの様子を、前編・後編の2回に分けてお伝えします。

今年のテーマは「今、もっとも贅沢な京料理」

京都府に3月移転の文化庁・文化財調査官(食文化部門)の大石和男さんを来賓に迎え、ご挨拶をいただきました。「2022年11月、『京料理』は登録無形文化財に登録されました。京料理は、料理そのものだけでなく、技法、盛り付け方、食事をする場所、掛け軸や絵画などしつらえ、サービスなど多くの要素で構成されています。京料理は、多くの文化の集合体として位置付けられています。龍谷大学×日本料理アカデミーによる研究の積み重ねで京料理がさらに洗練されることを期待しています」と語りました。

龍谷大学 食と農の総合研究所「食の嗜好研究センター」センター長であり、農学部 食品栄養学科 山崎英恵 教授は「日本料理には伝統がありますが、ただ守るだけでは喜びや感動は得られません。時代に合わせて少しずつ変化していく必要があります。古典的な仕事を今一度掘り起こし、合理的な理由を探って、後世に残したい仕事、料理の型を提示したい。そうした中で見出されたものは、普段の家庭では絶対できないような料理屋の知恵と技をつくした料理、つまり『今、もっとも贅沢な京料理』です。プレゼンテーションを通し、料理のなかにある贅沢さ、京料理のエスプリを感じていただきたい」と、趣旨を語りました。

手間と時間をかけ、昔ながらの技を披露

NPO法人日本料理アカデミーに所属する料理人9名と、座長がひとつのチームとなり、テーマ「今、もっとも贅沢な京料理」の答えとなる料理を用意し、プレゼンテーションが繰り広げられました。料理での表現に至る過程や試行錯誤、見解を聞きながら、実際に味わっていきます。

1つめのプレゼンテーションで、まず登場したのは、「菊乃井」の主人・村田 吉弘氏による「小川からすみ」。村田氏は「贅沢な料理は、豪華な食材の羅列ではありません」。小川からすみは、祖父が残したノートに「昔からの仕事である」と書かれていたそうです。梅雨の終わりごろにボラの卵を取って塩漬けし、夏を過ぎてから秋に干します。からすみ1腹を2つに切り、筋を取って皮を剥きます。薄く切ったモンゴウイカでからすみを巻き、ガーゼで包んだものを奈良漬の粕に漬け、真空パックしたものを1 ヶ月置くと完成します。イカのむっちり感と、からすみのねっとり食感を一度に味わえる、酒の肴にぴったりの一品です。

「このように手間も時間もかかりますが、料理屋としては前菜の一品にしかなりません。今の時代にとても贅沢だと感じます」と、村田氏。

座長であり、味の素株式会社 食品研究所 エグゼクティブスペシャリストの川崎寛也氏は「1ヶ月以上も先を見据えて丁寧に仕込む。これこそご馳走と呼ぶにふさわしい」と、感想を述べました。

続いては、「京料理 直心房 さいき」主人の才木 充氏による「擬製豆腐」です。擬製豆腐は精進料理のひとつであり、昔から日本料理のなかで食されていますが、近年は巷で見かけることがほとんどありません。

木綿豆腐をさらしに包み、水分を逃したのちにすり鉢ですりつぶし、ザルで裏ごしし、さらにすり鉢にすりこ木を当ててつぶしていきます。卵を加えて混ぜ、砂糖、塩、薄口醤油で味を整えます。甘みや脂分の助けは、松の実、日本酒に浸して戻した干しぶどう。コンベクションオーブンで120℃、40分焼いて完成です。よく切れる包丁で、断面を美しくカットするのもこだわりのひとつでした。

「淡白な豆腐を、しみじみと味わい深い料理に仕立てました。キメの細かさは、豆腐をすり鉢で丁寧にすりあげたからこそなせた技。手をかけて丁寧に作ることで、作り手の気持ちを食べ手に伝えることができるのではないでしょうか」と、才木氏。

「豆腐は、フードプロセッサーを使うと簡単にすりつぶせるのでは?」という川崎氏の質問には「細かいものを切るのには向いていますが、豆腐は断然、すり鉢ですね。食感がまるで違います」と答えていました。

3品目は、「大和学園 京都調理師専門学校」和食・日本料理上級科学科長 宗川 裕志 氏の「蓮根のいとこ煮」。いとこ煮は日本各地にある郷土料理です。地域により食材や調理法は異なりますが、芋類やかぼちゃ、栗、ごぼう、大根などを小豆と一緒に煮て醤油、砂糖などで調味したものです。

 

「蓮根のいとこ煮」は、新小豆と旬の蓮根という、季節の出合いものを使用。蓮根の穴に、小豆の大きさを合わせながら1粒ずつ詰め、色付けの小豆とともに湯がき、お湯を足しながら4時間炊きます。渋みを取るためにいったん湯を捨て、一番だしと泡口醤油、砂糖で約2時間炊いて完成です。

「我々科学者は、見える化が大切だと思いがちですが、見えない手間を味わう感覚も大切にしなければ」と川崎氏が述べると、宗川氏は「見えないひと手間をかける。これがこの料理のカッコ良さであり、日本料理の美意識のひとつのあらわれです」と、料理に込めた想いを話しました。

 

<前編>のレポートはここまで。プレゼンテーションの続きと、「今、もっとも贅沢な京料理」のさらなる考察は<後編>にてご紹介します。