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キットを使って一匹から漬けられる鮒寿司

田邊 公一

龍谷大学農学部教授、農学博士

キットを使って一匹から漬けられる鮒寿司

田邊 公一

龍谷大学農学部教授、農学博士

滋賀県では清酒、漬物など、様々な発酵醸造食品が作られていますが、もっとも有名なものはやはり鮒寿司でしょう。鮒寿司は春先に獲れたニゴロブナを塩漬けにし、夏頃にご飯と一緒に樽に漬け、5カ月ほどで完成します。このように書くと、なんだか簡単に出来そう、と思われるかもしれませんが、塩漬け前の鮒の内臓をとる作業や塩漬け後にうろこをとる作業は、丁寧に時間をかけてやらないと腐敗の原因になります。また、なるべく小さな樽で漬けようとしても、魚体1匹あたり約2合のご飯が必要になるので、仮に10匹の鮒を漬けるにしても2升ものお米を炊く必要があります。かつては滋賀県の多くの家庭で自前の鮒寿司を作られていたそうですが、上記のような鮒寿司作りの大変さもあってか、家庭で鮒寿司を作ることは年々少なくなってきているようです。

樽が要らない鮒寿司作り

私たちは、ビニール袋を使って1匹だけの鮒寿司を作るキットを開発しました(実用新案取得済)。この方法であれば、樽を使わないし、臭いもほとんど出ないので、一人暮らしやマンションに住んでいる人でも気軽に挑戦することができます。また、屋内である程度暖かい場所に置いておけば、一年中いつでも鮒寿司を作ることができます。

研究の必要性から生まれたアイデア

このキットは、もともと鮒寿司に含まれる微生物を研究するために思いついたものです。以前は、鮒寿司の研究をするために毎年一回、樽を使って屋外で鮒寿司を漬けていましたが、樽の置き場所によっては表面にカビが生えたり、発酵がうまく進まなかったりと研究を思うように進められませんでした。実験室内で温度をきちんと管理しながら鮒寿司を作りたい!という思いから、色々な調理器具を試し、なるべく小さいサイズの鮒寿司作製方法を目指しました。また、滋賀県近江八幡市の株式会社奥村佃煮様に試作品を確認してもらい、製法についてアドバイスをいただきながら、開発を進めてきました。最終的に、ビニール袋を使った方法で、しっかりと密閉することでカビの発生を防ぎ、また一定温度で発酵させることで発酵期間を大幅に短縮させることにも成功しました。

ラボから地域貢献へ

私たちは、このキットを「クラフト鮒寿し作製キット」と名付けました。一匹単位の製造方法なので、塩を多めに入れて塩味を強くする、あるいは麹を入れて甘味を足してみる、など、原材料や作り方を自由な発想で気軽に変えて、自分好みの特別な鮒寿司にすることも可能でしょう。(ビニール袋だから)中身を観察し、外から触っても大丈夫なので、発酵の様子、微生物のはたらきを見て触って学ぶ教材にもなります。このような新しい入口から、滋賀県の伝統的な発酵食品に興味を持ってくれる人が増え、発酵食品業界の活性化につながることを期待しています。

「クラフト鮒寿し作製キット」を使った鮒寿司の作り方

① 「クラフト鮒寿し作製キット」で使用するビニール袋(写真中央)と空気を抜くポンプ(写真右側)。右上の空気抜き穴から中の空気を抜くことができる。

② 炊いた米を冷ましてから袋に詰め、洗った塩漬け鮒も詰めた状態。鮒のお腹と頭の部分にも飯を詰める。

③ さらに飯を追加して、外側から形を整える。

④ 空気を抜いて、室温(20℃~25℃が最適)で保管しておくと、乳酸菌による乳酸発酵が始まる。

⑤ 2カ月もすれば、発酵が完了し食べられる状態に。(写真は完成品を盛り付けた例)