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「ニュークックチル」や新たな料理の保存延長処理法……最先端技術で変わる「給食の現場」の“今”

朝見 祐也

龍谷大学農学部教授

「ニュークックチル」や新たな料理の保存延長処理法……最先端技術で変わる「給食の現場」の“今”

朝見 祐也

龍谷大学農学部教授

みなさんには、給食の思い出はありますか? 「小学校の給食が美味しかった」「机を寄せ合って、みんなで食べるのが楽しかった」など、さまざまなエピソードを持っている人も多いのではないでしょうか。子どもの頃は、給食を当たり前のように食べていたかもしれませんが、じつは給食には調理師や給食制度を支える人たちによる、たくさんの工夫が詰まっています。
私の専門分野は給食経営管理学です。経営、献立作成、衛生管理、食材管理、調理管理など、給食施設の運営に関わるすべてを考える学問です。今回は、学校や病院、高齢者施設などで提供される給食の“最先端”事情をお話ししましょう。

給食の調理や衛生管理は厚生労働省のマニュアルに沿って行われる

近年、給食を提供する中学校が増えています。「子どもにお弁当を用意するのが大変だ」「給食があれば嬉しい」という声に、自治体が応えているのです。文部科学省の調査によると、令和3年度の給食実施率は全国では、小学校で99.0%、中学校で91.5%。主食やおかず及びミルクで構成される完全給食の実施率は94.3%でした。

給食を提供するにあたり、もっとも重視されるのは「安全・安心」です。厚生労働省は食中毒を予防するため、衛生管理の指針となる「大量調理施設衛生管理マニュアル」を作成しています。マニュアルには、食材の保管方法、調理の手順、調理機器や器具の洗浄方法などが細かく示されています。例えば、加熱調理食品は中心部温度計を使って中心部が75℃以上であることを確認し、そこからさらに1分以上加熱を続けます。給食施設では、このマニュアルに沿って調理を行わねばなりません。

「安全・安心」に加え「美味しさ」「効率化」も大切

龍谷大学 農学部 食品栄養学科 朝見祐也教授

「安全・安心」を前提としたうえで、さらに求められるのが「美味しさ」です。現在、多くの給食施設では、その日に食べる料理をその日に作る「クックサーブ」という方法が主流となっています。その理由は、できたての美味しい料理を提供するためです。しかしいっぽうで、手間がかかるという問題もあります。さらに近年は、調理師不足や食材費の高騰も課題となっています。2023年9月、広島県の給食会社が物価高騰のために破産し、学校給食の提供が停止したことがニュースとなりました。自治体と適正価格で契約をする、物価が高騰した場合は契約途中で価格の見直しをできるようにすると良いと考えます。

私は「美味しさ」と「効率化」をいかに両立させるかという研究に注力しています。少ない人数でも費用をできる限り抑え、安定して給食を提供するには、効率よく調理を行う必要があると考えます。

病院や福祉施設等で採用されているのが「クックチル」「クックフリーズ」です。「クックチル」は、加熱した料理を冷蔵保存、提供するタイミングに合わせて再度加熱し盛り付けるという方法で、冷蔵で5日間保存することができます。「クックフリーズ」は、その冷凍バージョンです。まとめて調理できる、衛生面において安全性が高いというメリットがありますが、料理によっては不適なもの(例:揚げ物等)があります。

盛り付けのまま冷蔵&加熱ができる「ニュークックチル」

最近注目されているのが、新しい調理方式「ニュークックチル」です。「クックチル」と手法は似ているのですが、加熱した料理を“盛り付けして”冷蔵保存するという点が異なります。盛り付け後のお皿を乗せた棚状カートをそのまま冷蔵。提供前に料理を再加熱します。再加熱は、カートごと電子レンジのようなマイクロ法で温める方法のほか、カートのお皿を乗せる部分にIHが仕込んであり、温めたい皿だけを加熱するというものもあります。

龍谷大学 農学部 給食経営管理実習室/オープンキッチンでの実習風景

龍谷大学 瀬田キャンパスには、給食経営管理実習室/オープンキッチンがあります。ここは、給食施設における大量調理をシミュレーションできる、最新の厨房機器が設置された実習室です。学生たちは実際の給食をイメージした約100食分の大量調理の実習をおこない、隣接するオープンキッチンで教職員や学生に提供しています。実習室には「ニュークックチル」の関連設備もあり、学生たちは最先端の技術に触れながら給食運営を疑似体験しています。

クックチルの料理の「日持ちをよくする」方法を開発中

クックチルの食材は、保存期間が短く、5日間程度しかないのですが、現在私は、京都府宇治市にある角井食品さんとの共同研究で、クックチルの食材を少しでも長持ちさせるための開発を進めています。クックチルの食材に高圧をかけ、微生物の活動を休めることで長期間保存の実現をめざしています。

公立学校での給食費は、施設設備費や修繕費、調理師などの人件費は自治体が負担しており、食材費は保護者の負担となっています。給食費は安いほうがありがたいのは事実ですが、値段の安さだけを求めていては、お子さんの成長に必要な栄養や量、美味しさを求めることが難しくなります。ともすれば、給食制度が崩壊する危険も伴います。

「ニュークックチル」や現在検討中のクックチルの料理の日持ちを長くする処理法は、働き手不足問題の解決にもつながると考えます。「給食制度の調理現場も給食を支える企業も、私のような研究者も、給食を提供し続けるためにたゆまぬ努力を続けています。給食を食べているという方にも、お子さんや家族が給食を利用しているという方にも、給食に携わる人たちがさまざまな工夫を凝らして「安全・安心」「美味しい」「効率化」に取り組んでいることを知っていただければと思います。