「味噌は医者いらず」という古いことわざをご存じでしょうか。味噌は、身体の不調を改善してくれることを喩えたことわざです。現在では、日本の代表的な発酵食品である味噌には、高血圧の予防効果のある成分や免疫力を強くする成分が含まれていることなどがわかってきました。このことわざは正しかったわけですね。美味しくて、身体にも良いとなると、昔の人にはとても貴重だったことでしょう。実際、平安時代の官僚には、給与の代わりに味噌が支給されていたようです。その後、しばらくして、一般の人々にも一汁一菜と呼ばれる食事の文化が定着していきました。
味噌の原料の基本となるのは大豆、塩、そして麹菌です。地域によっては、大豆に加えて米や麦が使われます。大豆、米、麦などに、麹菌というカビを生やして発酵させるのです。
カビというと、お風呂場に生えるものを想像してしまいますが、もちろん麹菌には毒性もありませんし、身体によい成分をつくるのにも役立っています。味噌ばかりでなく、醤油や日本酒を作るのにも欠かせないので、麹菌は日本の宝物ともいえます。
味噌は地域性に富む発酵食品です。中部地方では、米や麦を使わない豆味噌がよく食べられています。赤味噌とか八丁味噌とも呼ばれます。九州では、麦を加える麦味噌の生産が盛んです。全国レベルでみると、米を加える米味噌が最も多く消費されているとの統計もあります。さらに、現代では、いくつかの味噌を混ぜ合わせて作る調合味噌も増加をたどっています。
どの味噌も特徴的な味わいがありますが、おそらく子供の頃から慣れ親しんだ味噌が一番だと誰しも思うのかもしれませんね。
大豆、米、麦といった性質の異なる穀物から味噌を作るのはとても難しい作業です。しかし、発酵の力を上手に操って、いろいろな穀物を美味あふれる味噌に仕上げる技術が日本に培われました。こうしたことから、日本はしばしば発酵大国とよばれるのです。
[ひと口メモ]稲麹(稲玉)
無農薬栽培の稲には「稲麹(いなこうじ)」と呼ばれるカビの塊のようなものがつき、この麹から黄麹菌を取り出して酒づくりをしている酒蔵もあります。
出典:「島純の発酵食」『滋賀民報』