発酵食品は、微生物という目に見えない小さな生物の力で作られます。日本酒、味噌、醤油などは、我が国の代表的な発酵食品です。それらに加えて、私たちに馴染みの深い発酵食品となったのがパンです。
パンは、鉄砲とともに種子島に伝来したと言われています。日本のパンは、小麦粉を主な成分とするパン生地を微生物の一種である酵母の発酵の力でふんわり膨らませて、それを焼き上げて作ります。しかし、世界を見回すと多種多様なパンが存在し、小麦以外の穀物を使うものも多く、発酵をさせないものまであります。
発酵の力を使うと、パンはなぜふんわりと膨らむのでしょうか。
パン作りは、小麦粉などの原料を水と捏ね合わせることから始まります。小麦粉に水を加えて捏ねていくと、グルテンとよばれるタンパク質ができます。グルテンというと少し難しい用語に思えますが、日本食に使われる麩と同じもので、ネバネバした性質をもっています。このネバネバしたグルテンを風船に見立てるとパンの膨らむ仕組みがわかりやすいように思います。
酵母という微生物は、糖分を食べて発酵し、アルコールと炭酸ガスに変える性質をもっています。アルコールの方は、お酒やみりんに使われます。
パンを膨らます時には、炭酸ガスが主に使われます。ネバネバしたグルテンの風船の中で、酵母に炭酸ガスを出してもらうことで、風船が膨らんでいくようなイメージです。パン生地の中で無数の風船が膨らんでいって、ふんわりとした食感になるのです。
パンを切ってみると、たくさんの小さな穴があいていますね。パン生地を焼くときには風船は破裂してしまいますが、その風船の跡がパンの小さい穴になるわけです。
酵母は糖分をアルコールと炭酸ガスに変えるので、パン生地にはアルコールが含まれることになります。でも、パンを食べて酔っ払ってしまう人はいませんね。アルコールは、パンを焼く時に蒸発してしまうからです。
焼きたてパンには蒸発した薄いアルコールの香りが残りますが、私たちはその香りを焼きたてのフレッシュな香りと感じると言われています。
出典:「島純の発酵食」『滋賀民報』