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信州林檎物語④ 「りんく農園(前編)」後悔のない人生に向けた方向転換

HYAKUSHO MAG

農家さんのSTORYを届けるWEBマガジン

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食卓を彩る、りんご。ひとかじりすれば、甘酸っぱくて甘い、ジューシーなおいしさが、口いっぱいに広がります。そんな、おいしさを生み出しているのは、ほかならぬ「りんご農家さん」。そんな農家さんの思いや、農業に対する哲学に、耳を傾けてみませんか?

りんごを愛して奮闘する、りんご農家さんのインタビューをお伝えしていきます。
きっと、りんごの見え方や味わいが、昨日とは変わるはず。

今回ご紹介する農家さんは、長野県南部の中川村で「りんく農園」を運営する山岸純二さん・さやかさん夫妻です。純二さんは経営者、さやかさんは会社員として働いていた北海道から移住し、2020年1月から農園を立ち上げました。

「人と人をつなげるりんごを作りたい」とおふたりは話します。

りんごに人生をかけた移住、就農

りんく農園があるのは、中央アルプスの山並みが綺麗に見えるりんご団地。

さやかさん「ここから見る冬の中央アルプスはとても綺麗。私の故郷でもある北海道とはまた違う自然の美しさがありますね。」

さやかさんは北海道、純二さんは福島県生まれ。おふたりとも、長野県とは縁もゆかりもなかった人生でしたが、農家になると一大決心をしてから、りんご栽培の研修先を訪ねて北海道から長野県に移住しました。

さやかさん「北海道の借家には庭があり、休日は家庭菜園を楽しんでいました。家庭菜園をやるうちに、生涯現役で挑める農業をやってみたい気持ちがむくむく湧いてきたんです。もちろん家庭菜園と農業は全く違うし甘くないことは、承知していましたが。」

その思いを、純二さんに相談。2人で農家を目指すこととなりました。

育てるとしたらどんな作物がいいのか? 調べていくうちに野菜や米などではなく、果樹栽培、その中でもりんごに興味が湧きました。
その後、北海道だけでなく全国に目を向けて農業を学ぶ研修先を調べたところ、長野県松川町で農業研修を行っている農園を見つけました。

そして2018年1月、その農園で研修体験をすることに。いろんな樹齢のりんごの木があり、一度に何年分もの知識量を得られることから、その農園で学ぶことを決意。長野県に移住し、4月から夫婦一緒に研修生として入りました。

純二さん「研修先の農園がとても良かったので、決心がつきました。りんごについて夫婦で多くのことを学ぶことができたので感謝しています。」

北海道からはるばる遠い長野県への移住に、躊躇する気持ちはありませんでした。おふたりの趣味はツーリングと旅行。全国各地、必ず素晴らしいものがあることを肌で感じていたことから、住む場所へのこだわりは特に持っていなかったのだそうです。

研修生を卒業したのち、2020年1月に「りんく農園」を立ち上げました。農業経営の難しさを認識していたのはもちろんのこと、覚悟をもって就農したおふたりですが、いざやってみると、農業は本当に大変な仕事であることを、身を持って知ることとなりました。

さやかさん「研修先では農業機械をはじめ、必要なものがすべて揃っていましたが、私たち新規就農者は一から揃えなければなりません。また、りんごを作るだけで終わりではありません。経理や営業、箱詰め、お客さんへの連絡や配送管理など、すべてのことを2人でやらなければなりません。

夫に協力してもらい、人生をかけて長野県に来たんです。軽い気持ちではなく覚悟をもって農業を始めたからこそ、ここまで来れたのかなと思います。」

後悔のない人生に

北海道から縁もゆかりもなかった長野県に移住し、やったことのない農業を始めたおふたり。その行動力はどこから来ているのでしょうか。

さやかさん「学生の時にバイクの免許をとりました。アウトドア用品を買い集めて、初めて3泊4日で北海道ツーリングをしたのが20歳の頃。それがすごく面白くて、バイクで日本一周をすると心に決めました。」

東北方面や関東方面などエリアを分け、複数回に分けて各所へ足を運びました。目的地をだんだん遠くにして、30歳の時に沖縄に到着。10年かけた日本一周にピリオドを打ちました。

さやかさん「20代の頃はお金を貯めては仕事を辞め、バイクで旅に出ることを繰り返してきました。だから職歴はたくさん。人生の先輩たちからは、定職に就かず何をやっているんだと言われることもありましたけどね。
やりたいと思ったことをやり遂げる想いの強さ。その想いを継続して、やりたいことにとことんのめり込む。今はその対象が農業です。」

また、すぐに農業へと人生のコマを進めることができたのも、さやかさんの日本一周の経験があったからこそ。

さやかさん「ある人は、定年退職してからバイクで日本一周したい、と言っていたんです。その気持ちもよく理解できますが、私は自分が定年退職するまで生きているかどうかも分からない、と思ったんです。健康であるかも分からないし、バイクに乗れる体であるかも分からない。
だから、あの時に日本一周すると決断して実行した自分を褒めたいです。やっておいてよかったなと思います。農業も思い立った今、できる時に始めた方がいいと思いました。」

純二さん「最初に農家になりたいと聞いた時は驚きましたが、人生は一回きり。やりたかったら、やってみればいいと思いましたね。」