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京都“ロングセラー”グルメの旅④ 京都人がこよなく愛する「山椒」の話

津曲 克彦

ライター

京都“ロングセラー”グルメの旅④ 京都人がこよなく愛する「山椒」の話

津曲 克彦

ライター

京都と大阪。
新快速で約30分の距離にも関わらず、食文化の違いに驚く場面にしばしば出合います。
そのひとつが、京都人の「山椒好き」。
大阪ではせいぜいうな丼に粉山椒をふりかける程度ですが、京都では伝統的な京料理はもちろん、湯豆腐やみそ汁、サラダやお造り、親子丼やカツ丼にも七味唐辛子ではなく粉山椒をふりかけて提供するケースがよくみられます。どんな料理にも欠かせない名脇役として京都人から絶大な支持を集め続けてるのです。

それにしても、なぜ京都人は山椒を好んで使うのでしょうか。
今回は、ピリリとした爽やかな風味が一服の清涼剤となって、京都ならではのジメジメとした暑さを忘れさせてくれる、山椒にまつわるお話です。

日本最古のスパイス「山椒」

山椒の実が成る5~6月にかけて、京都の八百屋の店先には、淡緑色の山椒の実が山盛りになって販売される光景をよく見ます。
せっせと枝から実を摘んでいくのはなかなか根気が必要な作業ですが、それも美味しい山椒を味わうため。粉山椒のように加工された姿ではなく、こうした季節感を生活の中に取り入れているのも、京都ならではの文化なのではないでしょうか。

そもそも山椒は、縄文時代や弥生時代の遺跡から出土されており、『魏志倭人伝』にも山椒が自生している記述が残されていることから、「日本最古のスパイス」といわれています。
平安時代中期の『延喜式』には、全国各地から山椒が納められていた記述があり、塩漬けにされ食用としていたことがわかっています。また、薬の原料としても使用され、のぼせや咳、下痢などに効果があるとされていました。

『山椒大夫』の舞台、京都府宮津市にある「安寿と厨子王」の像

ちなみに、森鴎外の小説『山椒大夫』は、平安時代の末期のお話を元にした説教節『さんせう大夫』をベースに創作されていますが、この物語に登場する山椒大夫は、その名の通り山椒を売って富を得たという説があります。これは私の想像ですが、都から程近い丹後国(現在の京都府北部)のお話だけあって、京都へ山椒を運んでいたのかもしれません。

葉・花・実…、その全てを

      筍の木の芽和え

京都ではどのように山椒を使っているのでしょうか。京料理では、木の芽とほうれん草などの葉物野菜をすり合わせて玉味噌で伸ばした木の芽味噌が有名です。春の香りを告げる調味料として、木の芽和えや木の芽煮、木の芽田楽にして食します。

      粉山椒

熟した実の皮を乾燥させた粉山椒は、薬味として色々な料理にかけたり七味唐辛子に使われたりします。祇園にある原了郭といえば「黒七味」が有名ですが、この商品は11代目が山椒に着目して生み出した逸品。山椒の緑青色が隠れてしまうまで手で揉み込むことで独特の濃い茶色になり、鼻に抜けるような豊かな香りと奥深い味わいを楽しめます。

      花山椒をまぶしたホタルイカの炊き込みご飯

山椒の花はつぼみの状態で摘み取られると、お吸い物や佃煮などに使われたり、薬味として焼き魚に添えられたりします。これを「花山椒」といい、山椒独特の辛みが少なく、香りや食感を楽しむものですが、あまり市場では流通していないようです。
また山椒の木には解毒作用があり、冷蔵庫がない昔は食あたりを防いでいたといわれています。

山椒が京都で重宝されるようになった理由について、「新鮮な生魚を仕入れることができなかったため、におい消しのために使われていた」「薄味の京料理にアクセントを加えるために使われるようになった」など色々な説がありますが、明確な理由は定かではありません。ただ、実や葉、花、木と、全てをあますことなく使っていた京都人にとって、山椒とは特別な存在であることがわかります。

京土産でも人気の郷土料理「ちりめん山椒」

山椒を使った京都の郷土料理といえば、「ちりめん山椒」が有名ですね。
ちりめんじゃこと山椒の実を炊き合わせた料理で、実山椒のピリッとした辛さにしっかりとした味付けがご飯のお供にぴったり。おにぎりにしたりお茶漬けにしたり、京都の食卓にかかせない逸品です。

ちりめんじゃこもまた、生魚が手に入りにくい京都ならではの食材。ちりめん山椒の原型ともいえる「ちりめんじゃこの炊いたん」に限らず、野菜とちりめんじゃこを一緒に炊くことが多く、親しみを込めて「おじゃこ」と呼ぶ人も多いです。

元々は家庭料理だったちりめん山椒ですが、現在では、「はれま」「やよい」「しののめ」など有名店の他、住宅街の小さな店など、京都市内各地でちりめん山椒が販売され、京土産として珍重されています。甘さを抑えてふっくらと炊き上げたものやしっかりと煮詰めて甘辛く仕上げたものなど、お店によって味や食感はさまざま。ぜひ自分好みの味を探してみてください。