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世界の食紀行〜魅惑のイギリス編

Moglab編集部

Moglab編集部 取材スタッフ

世界の食紀行〜魅惑のイギリス編

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イギリスの食といえば、フィッシュアンドチップス、優雅な朝食「イングリッシュ・ブレックファスト」、そして紅茶が思い浮かびます。少し前までは「イギリス人は、食にあまり興味がない」といわれていましたが、現在は素材の味を活かした健康的な食事が増えているようです。

今回は、イギリス文化に造詣が深い、大学の准教授2名がそれぞれイングリッシュ・ブレックファストと紅茶について語る記事と、イギリス発の新しい離乳食「BLW」を紹介する記事をピックアップ。いずれも、イギリスの食文化をさまざまな視点から楽しめる内容なので、きっとイギリス料理の魅力に気づくきっかけになるはずです。

イギリス料理はまずい!?シェイクスピアが愛したイングリッシュ・ブレックファスト

英文学と英語教育学を専門に研究されている、龍谷大学 農学部の吉村 征洋 准教授。「イギリス料理はまずい」とよく耳にすることについて、イギリスの作家による「イギリスでおいしいものを食べるなら、1日に朝食を3回とるべきだ」という言葉を紹介しています。

劇作家・シェイクスピアがどんな朝食を食べていたかは明らかになっていないそうですが、彼の作品には朝食について言及する箇所が散見されており、吉村先生は「もしかすると、シェイクスピアは朝食に対して何かしらの思い入れがあったのかも」と推測しています。

ちなみに、イギリスの伝統的な朝食「イングリッシュ・ブレックファスト」は、ベーコン、卵、ソーセージ、トーストなど、種類豊富な料理で構成されているのだとか。この朝食は国内外のホテルなどでも提供されているので、ぜひ味わってみたいですね。

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イギリス料理はまずい!?シェイクスピアが愛したイングリッシュ・ブレックファスト

「紅茶の国」イギリス

龍谷大学 農学部 准教授の垣口 由香先生は、英文学が専門。イギリス人は紅茶に対して強いこだわりを持っているそうです。イギリス人作家のジョージ・オーウェルは、紅茶の入れ方について「少なくとも11項目は譲れない点がある」「そのうち4点は激論の種になることだろう」と述べていたとか。

そのひとつが、カップに注ぐときに、先に紅茶を入れるか、それともミルクを入れるかという問題。この順番をめぐって、イギリスでは互いに譲らないほど意見が分かれているそうです。

とはいえ、日常ではあまりこだわりなく紅茶を入れる人が多いのだとか。マグカップにティーバッグを入れ、電気ケトルからお湯を注ぎ、ティーバッグを取り出さずにミルクをドバドバッと入れて飲む。これは、日本人の「日本茶の美味しい入れ方は知っているけれど、普段は簡単に作ってゴクゴク飲んでいる」という感覚と似ているかもしれませんね。

垣口先生によると「イギリスで飲む紅茶が美味しいのは、日本とは水が違うからだろう」とのこと。いつか、本場の水と茶葉で淹れられた、絶品の紅茶を飲んでみたいですね。

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「紅茶の国」イギリス                   

離乳食からみえてくる世界のおもしろ食文化 第6回世界の常識を覆した新・離乳食?!イギリス発祥の手づかみ食「BLW」とは

京都在住、フリーライターの長谷川とよさんによる「世界の離乳食」シリーズ。こちらの記事では、イギリスの保健師、ジル・ラプレイさんが提唱する新しい離乳食「BLW」を紹介しています。

BLWは、赤ちゃん主導の離乳食〜Baby-led Weaningの略。赤ちゃんが離乳食をスプーンで「食べさせてもらう」のではなく、赤ちゃんが自分の手で食べ物を持ち、自分のペースで食べるという、離乳食のメソッドです。

2008年にジル・ラプレイさんによって書かれたBLWの指導書は、イギリスだけでなく、日本を含む世界20カ国以上で翻訳版が出版されています。BLWは赤ちゃんにとって、食を楽しむようになる、身体面での発達が促される、心理面でも自信がつくなどのメリットがあるそうですよ。

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離乳食からみえてくる世界のおもしろ食文化 第6回 世界の常識を覆した新・離乳食?! イギリス発祥の手づかみ食「BLW」とは(前編)

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離乳食からみえてくる世界のおもしろ食文化 第7回 イギリス発の新たな離乳食「BLW」 食の主導権を赤ちゃんに取り戻せ!(後編)

イギリス料理はまずい!?シェイクスピアが愛したイングリッシュ・ブレックファスト

吉村 征洋

龍谷大学 農学部 准教授

イギリスでは、1日3食をすべて朝食にすべき

皆さんはイギリスの料理について、どのようなイメージを持っていますか。
フィッシュアンドチップスやローストビーフなど、イギリス料理の代表例は思い浮かぶと思いますが、それ以外の料理は一般的にあまり知られていません。
また料理の味に関しては、「イギリス料理はまずい」とよく耳にするのではないでしょうか。そのため、イギリスの小説家サマセット・モームは、「イギリスでおいしいものを食べるなら、1日に朝食を3回とるべきだ」と言っています。

イングリッシュ・ブレックファスト協会によれば、イギリス式朝食の代名詞である「イングリッシュ・ブレックファスト」は、ベーコン、卵、ソーセージ、ベイクド・ビーンズ、バブル&スクイーク(お好み焼きのようなもの)、焼きトマト、フライド・マッシュルーム、ブラック・プディング、フライド・ブレッド、トーストで構成されています。
ちなみに、朝食を表す英語 “breakfast” は、「break=破る」と「fast=断食(する)」という2語から成り立っていて、「(前日の夕食以降)断食した状態を破る食事」という意味を表しています。

朝食に思い入れがあるシェイクスピア

現在のイングリッシュ・ブレックファスト文化は、20世紀初めのエドワード7世時代に形成されたといわれていますが、シェイクスピアが生きた時代のイングランドの朝食はどのようなものだったのでしょうか。
当時のイングランドでは、階級によって朝食の内容は異なっていました。労働者階級の人々は朝早く起きて労働していたため、たいてい朝食を食べていたようですが、貴族階級の人々は労働のために早起きする必要がないため、朝食を食べないことが多かったようです。
貴族階級の人々が朝食を食べる場合、食卓に着席しながら優雅に小麦から作られたパンやチーズ、フルーツ、野菜、スープなどを食していましたが、階級の低い人たちはライ麦パンやオートミール、あるいは前日の残り物などを食べていました。

実はシェイクスピアが朝食を食べていたのか、もしくは朝食で何を食べていたのかについて、記録がほとんど残っていないため、あまり明らかになっていません。しかし彼の作品を見ると、朝食に言及する箇所が散見されます。
例えば、『ヘンリー4世第1部』ではフォルスタッフが、“go, make ready breakfast”や “Hostess, my breakfast, come!” (太字は筆者)と言っています。あくまでも推測ですが、シェイクスピアが作品の中で何度も朝食に言及しているのは、もしかすると朝食に対して何かしらの思い入れがあったからなのかもしれませんね。

(ロンドンにあるグローブ座)

(グローブ座にあるフォルスタッフ像)

<参考文献>
川北稔『世界の食文化〈17〉イギリス』農山漁村文化協会、2006年。
The English Breakfast Society. “The Traditional Full English Breakfast.”